LGBTQ、#MeTooやダイバーシティ ’18年を象徴する映画5選

 「歌は世につれ、世は歌につれ」という諺があるように、ポップ・カルチャーとは、社会の動きに何かしら影響されて生きるもの。‘18年に世界で話題になった映画や音楽のなかから、特に社会性を表している作品を音楽ライター・沢田太陽氏に選んでいただいた。

社会的マイノリティの声をダイレクトに反映

photo via Pexels

 初回となる今回は映画編。今年、話題となったニュースと、それを象徴するような作品を振り返ってみよう。 『君の名前で僕を呼んで』:LGBTQ  まずは今年のアカデミー賞(以下、オスカー)で脚色賞を受賞した『君の名前で僕を呼んで』。近年、世界的に増加傾向にあるLGBT映画のなかでも、これは青春物語としても歴史的な傑作。  麗しきイタリア在住の高校生の美青年が、アメリカからやってきた抗いようのないほどの美しさを持つ大人の男性に心を奪われる。ドイツの文豪トーマス・マンの小説で、イタリアの名匠ルキノ・ヴィスコンティの映画としても知られる「ベニスに死す」(映画は1971年)の少年版といった趣き。  時代設定が1983年と、エイズの症例が初めて発見された年というのも象徴的。脚本を手がけたのが、1990年前後に、20世紀初頭の同性愛小説家で『モーリス』などで知られるE・M・フォースターの小説を次々と映画化して話題となったジェイムス・アイヴォリーであったことも話題を呼んだ。 【関連ニュース】  自民党の杉田水脈衆院議員が『新潮45』8月号の誌上で、「LGBTは『生産性』がない」と差別的な文章を寄稿。国内外から批判が沸き起こった。 『スリー・ビルボード』:#MeToo  同じくオスカーで主演女優賞(フランシス・マクドーマント)と助演男優賞(サム・エリオット)を受賞した社会的話題作。アメリカ中西部ミズーリ州の田舎町で、娘をレイプで殺された母親が街の大型広告に事件を訴え、その行為を疎ましく思う因襲的な地元警察との戦いを描いた本作は、’17年からハリウッドで火がついたセクハラ被害告発運動「Me Too運動」をダイレクトに象徴することに。 【関連ニュース】  人権派ジャーナリスト、広河隆一氏の性暴力疑惑が『週刊文春』に掲載され、被害に遭ったとされる女性が他媒体でも続々と証言する事態へと発展。 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』:トランプ政権  オスカーに縁こそなかったものの、アメリカのインディペンデント界隈ではかなりの話題を呼んだ問題作。サブプライム住宅ローン危機以降に住宅問題に直面し、安モーテルでその日暮らしをする人たちの物語で、6歳のヒロインの母親が違法商売で生活費を捻出し、ドラッグまみれになりながら生活する壮絶な姿が描かれる。  トランプ政権のアメリカの貧困層のリアルな現実を描いたという意味においては、前出の『スリー・ビルボード』に勝るとも劣らない。 【関連ニュース】  ‘17年、1月に誕生したトランプ政権。就任直後からロシアゲート事件や閣僚の交代などスキャンダルが絶えず、‘18年11月に行われた中間選挙では民主党に下院の過半数を奪われた。
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「黒人映画は売れない」の偏見を打ち破ったヒーロー映画
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