11月20日にハンストを開始する際に、ハンスト決行者たちがセンターに提出した申入書。制度の改善を訴えている
Wさんは36歳の日系3世。ブラジルに住んでいた13歳のときに身代金目的で誘拐されたことがあるという(すぐに釈放された)。父も3回の強盗に遭っていたことで「安全な国に住みたい」と、同じ年にWさんは両親と2人の妹とともに日本に移住した。
Wさんは深い理由は語らなかったが、あるとき悪い仲間に巻き込まれて自動車窃盗罪に問われ、1年10か月の服役生活を送った。それによって日本での生活を保証していた永住者ビザが失効することになってしまい、在留資格を失ったWさんは出所後に即、西日本にある収容施設で7か月収容されてしまう。
その7か月後には仮放免されるが、Wさんは再び自動車の窃盗に関わってしまう。というのは、仮放免は1か月か2か月ごとに、各地にある入管の窓口で更新手続きをせねばならない。その更新手続きのときに、Wさんは担当者から「あなたの場合は再収容もありえますよ」と言われた。これに失望したWさんはヤケになって、また誘われるままに犯罪に走ってしまったのだ。
そして再び刑務所に3年間収監され、出所後に名古屋の入管施設で1年間、次いで東日本入国管理センターで9か月間、合計で1年9か月間の収用生活を送っている。
「水も飲まない」ハンストを始めて2週間、「いつまでやるかは考えていない」
被収容者との面会は、刑務所のようにアクリル板越しに行う(法務省のホームページより)
Wさんが制度の改善を訴えてハンストを実施するのは、今回が4回目だ。3回目のハンストは、2018年4月にWさんと同じ部屋にいたインド人男性が、いつ出られるのか分からない境遇に絶望して自殺したことから、100人以上の被収容者が参加したものだった。
だが、食事をしなくても水だけ飲んでいれば人間は数週間生きられるし、1週間、2週間と経つうちにハンストは自然消滅する。そして、ハンスト後にはいつもと変わらない待遇が待っているだけだった。だからこそWさんは、今回のハンストでは「中途半端なハンストにはしない」と決めたのだ。
同センターは、建物の中がいくつかのブロックに分かれているが、11月28日、Wさんは1Aブロックから7Bブロックに移送された。7Bブロックとは1人部屋だけの区画だ。つまり、それまで一緒にハンストをしていた1Aブロックの仲間とはもう会うことができなくなっていた。そして、28日にWさんと面会した市民団体のメンバーによると、ハンストを実施する収容者は20人を切った。
そして筆者は、12月5日に再度Wさんに面会した。Wさんは11月26日に面会した時よりも痩せていた。驚くことに、まだ水なしハンストをやっているという。
「もう体が慣れたのか、水がなくても苦しいとは思いません」
ただこの時点で、ハンストを続けるのはほんの数人に激減していたようだ。Wさんは「いつまでやるかはまったく考えていない。ただ、朝起きたら『今日もやる』と思うだけ。その繰り返しです」との決意を固めていた。