NAFTAから四半世紀。新NAFTAが3か国合意に至った背景とは

陰の功労者クシュナーにメキシコ政府から勲章

 メキシコ政府は今回の合意に至った陰の功労者として米大統領上級顧問ジャレッド・クシュナーにアギラ・アステカ勲章を授与した。  この勲章はメキシコで最高位の勲章とされている。クシュナーはメキシコの外相ビデガライとはニューヨークのウォール街で両者が活躍した当時から親交があり、両国の関係が拗れた時にクシュナーが常に仲介に入って事態が容易になるように導いていたという背景があった。(参照:「Excelsior」)

新NAFTA合意でも米国産業は変わらない!?

 T-MECの合意でトランプ大統領は“自動車産業に従事している労働者が解雇されること避けることができるようになる”と述べた。ところが、皮肉にも署名が交わされる前の11月26日にジェネラルモーターズは米国とカナダの7工場を閉鎖して14500人を解雇する計画であることを発表した。(参照:「La Union」、「El Mundo」)  T-MECでは自動車の部品調達の比率を、これまでの62.5%から70%に引き上げるとした。メキシコで生産される車の部品の70%は米国で生産されたものを使用するという条件になった。また、生産工程の40%-45%を労賃が最低16ドル(1776円)の工場で生産すると規定した。  この業界において、メキシコでの労賃は平均して5.21ドル(578円)で、部品メーカーとなると労賃は更に安くなる。一方の米国だと21.68ドル(2406円)となっているという。  この両国の労賃の差を是正しようとすればするほど自動車の生産コストは上昇することを意味し、結局その負担は米国の消費者にしわ寄せされ、また価格の上昇から輸出競争力も落ちるということになる。  トランプ大統領が米国の産業を保護し奨励しようとしても、労賃が他国に比べ高い限り競争力は衰えることから生産業者は自ずと米国を離れ労賃の安価な国に生産拠点を移すのは当然のこととなっている。(参照:「El Pais」)  新NAFTAであるUSMCA=T-MECが米国の産業を救う手段になることはまずないであろう。 <文/白石和幸> しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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