カルロス・ゴーン報道に垣間見える「昭和」の呪縛 「サラリーマン文化時評」#6

 カルロス・ゴーンが逮捕されたという事件が、平成最後の年末を賑わせている。彼がこれほど騒がれるのは、日産のトップに電撃就任して以来のことのような気がする。あのとき、コストカッターとして日産に乗り込んできたカルロス・ゴーンは、日本のサラリーマンにとってまさに黒船並みの衝撃だった。

『明日があるさ』が戯画化したカルロス・ゴーン

photo via Ashinari

 ‘00年に放映された缶コーヒー「ジョージア」のCMが、彼の黒船感を端的に戯画化している。そこでは外国人上司の就任に戸惑いつつ、前向きに対応する日本のサラリーマンが描かれていた。同CMで流れる『明日があるさ』のなかでは「新しい上司はフランス人」というフレーズが登場する。  当時はバブル崩壊後の「失われた10年」の真っ最中。大手銀行や証券会社がバタバタと倒産し、会社はもはや一生守ってくれる疑似家族ではなくなり始めていた。飛び交う言葉は「勝ち組」「負け組」「格差社会」「下流社会」。ジョージアの『明日があるさ』キャンペーンは、そんな世相の中で始まった。  坂本九が歌った1963年の大ヒット曲『明日があるさ』を替え歌にして、ダウンタウンの浜田雅功が平凡なサラリーマンを演じ、吉本のお笑いタレントたちが同僚役やライバル役で大挙出演。世相を巧みに取り入れつつ、地に足つけて前向きに働く普通の人々を描いたこのキャンペーンは大きな反響を呼び、平成史に残る社会現象にまで発展していく。  カルロス・ゴーンを風刺したバージョンは初期段階で放映されて、このキャンペーンの方向性を決定づけた。主人公の浜ちゃんは、フランス人上司という黒船に対して卑屈にならず、変化を受け入れ、新しい時代に胸を張って向き合おうとした。大きな時代の変化に立ちすくむ全ての日本人に、このキャンペーンは明日への希望を与えてくれたのだ。  『明日があるさ』はテレビドラマや映画まで制作され、まさに日本中を巻き込んだムーブメントになった。でも、それによって日本に明るい明日はきたのだろうか。
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「古き良き昭和」の残像
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