「残業を減らして生産性を上げろ」? 無茶振りを解決するためには「成果主義型人事評価」を疑え

人事評価でも必要なのは「サイエンス」

「日本では“リーダーや管理職になりたくない”という若者が急増している」と山極氏は語る。  その理由は、自分だけでなく、チーム全体で業績を出すことを求められ、業務や責任の量ばかりが増えるからだという。  実際に、大多数の管理職は「今のチームで残業を減らして生産性を上げろ!」と言われ悩んでいる。映画やテレビドラマに登場する昭和の時代の課長さんたちはいたって暇そうに描かれていたが、現代のプレイングマネジャーの仕事量は増える一方。のきなみ、「自分の指示通り、手早く仕事を片付けてくれ」という指示になりがちだ。しかし、それでは生産性は上がらないのでである。 「上司って、意外と『俺のやり方』を部下に押しつけているんです。そして、違うやり方でやろうとすると『あいつは言うことを聞かない』となる。しかし、一人一人、個性と強みは異なります。例えば、上司は『気合いと根性』で仕事を取ってくるタイプだとしても、部下の中には、趣味の話で仲良くなって仕事に結びつける人もいるでしょうし、相手に役立つ情報をこまめに集めてアプローチする人もいるでしょう。人によって、得意な働き方が違うということです」  山極氏は、「理想のリーダーなどというものは存在しませんし、リーダーに必要なのは、この“個人の特性と強み”を見極めること」だと言う。  その「人を見る」のも直感だけではない。ある理論に基づいて分析するのだ。それが組織心理学者・教育学博士、経済学博士である小林惠智博士が開発した「FFS理論」である。 「FFS理論」では、人が無意識に考え、行動するときの特徴的な5つの要素(Five Factor)の組み合わせと、それぞれの要素の高低による違いで個性が作られていると考える。そして、その5つの要素を定量的に解析し「S」=ストレス値がポジティブかネガティブかを分析することによって、個人の強みを客観的に把握できるという理論である。 「FFS理論で考えれば、集団内、あるいは組織内でのメンバー間の相互作用のある環境において、科学的かつ定量的にその個人が置かれた状態を把握できます。それによってチームのそれぞれが、お互いの強みと弱みを知ることができれば、これまでと同じ内容の仕事でも強みを活かしたやり方をとることができ、どんどん仕事が楽しくなってきます。異なる個性を組み合わせることが最強チームのコツなのです」 「売り上げ」「実績」ばかりに目が行っているリーダーには、ちょっと痛い指摘ではないだろうか。「リーダーは、仕事を見ずに、人を見よ!」という言葉を日々心がけてみたいものだ。 <構成/HBO編集部> 山極毅(やまぎわ たけし)●経営人事パートナーズCEO。組織人事監査協会認定パーソネルアナリスト。 1989年、日産自動車入社。入社当時はルノーとの資本提携以前であったため、その後の企業再生プロセス、意思決定プロセス改善の一部始終を、実務を通して体験する。在籍中の27年間で、開発、企画、人事の三部門を経験。自動車ビジネスのほぼ全部署、全行程での実務を担当する。開発部門にいたときは、5年間で新しいエンジンを開発、その後人事部へ異動し戦略的人事計画の導入責任者となる。評価報酬制度の見直しや採用の責任者を歴任。2016年に独立し、経営人事パートナーズを設立。 『「今のチームで残業を減らして生産性を上げろ」という無茶ぶりを解決する!』(扶桑社刊)11月23日発売 1500円(税別)
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「今のチームで残業を減らして生産性をあげろ! 」という無茶ぶりを解決する!

悩めるチームリーダー、中間管理職へおくる、ゴーン氏の改革を間近で見続けた元・日産人事部長による「人材の活かし方」