社員同士が対立している状況で「トップダウンのリーダーシップ」に固執することは、火に油を注ぐようなものだ。むしろ、そんなリーダーシップが過度になってしまったことで対立が生じたとも言えるかもしれない。そうした場面で、「巻き込み型のリーダーシップ」を繰り出せなければ、もはや統治能力は発揮できないということになる。
実は、角突き合わせない対立解消の手法は、それまで「トップダウンのリーダーシップ」の発揮度合が激しければ激しい人ほど、使い始めると驚くほどの効果がある。
この手法は、A部門のリーダーが、対立しているB部門のメンバーに対して方針説明したあと、A部門のリーダーは「よろしくご検討ください。ご検討いただいた結果は、すべてではないかもしれませんが、方針に反映させることをお約束します。よろしくお願いします」と言って、退室するところから始まる。
この時点で、「巻き込み型のリーダーシップ」は生じている。これまで手を変え品を変え、「あれしろ」「これしろ」「ああしてください」「こうしてください」と言ってきたA部門のリーダーが、「B部門の検討に耳を傾ける」と示すこと自体に、巻き込み効果があるのだ。そのうえ、自分は退室して「ああだ」「こうだ」と口を出さない。そして、退室するという行為自体も相手を巻き込む効果を高める。
もちろん、はじめてこの方式をとった直後は、「そうは言ってもB部門の意見を聞く気などじつはないに違いない」とか、「罠かもしれない」などと、B部門のメンバーは疑心暗鬼になることもある。
特に、A部門のリーダーが、心の奥底から「B部門だけで検討してもらおう」「B部門の検討結果を反映しよう」と思える境地に至っていないと、それが顔色や目の色にでて、言葉以上に相手に伝わりやすいものだ。そうしたしぐさがB部門のメンバーの抵抗感を高めてしまったりする。
しかし、A部門のリーダーが「約束に対して、そのとおり行動してくれた」ということを何度か経験していくと、対立解消度合は加速する。
反面、「すべてではないかもしれませんが、方針に反映させることをお約束します」という約束を一度でも反故にしてしまったら、もはやこの手法は役に立たなくなってしまう。そのため、角突き合わせない対立解消手法を用いる場合には、覚悟が必要だ。
この方式は、なにも組織のトップが他の組織のメンバーに対して繰り出すだけの手法ではない。同僚同士でも、部下から上司に対しても、お客さまに対しても、パートナー同士でも、親子間でも、相手を巻き込みたいというときに使える手法だ。ぜひ身近な機会で試してみることをオススメする。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第111回】
【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『
クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある