情報公開制度、一番活用しているのは建設業者だった――江藤貴紀「ニュースの事情」

情報公開制度 2014年12月10日、昨年大いに議論を呼んで可決された特定秘密保護法が施行されることになり、多くのマスコミで問題提起がされた。その中には情報公開請求が萎縮してしまう、政府による情報公開の流れに逆行するという論調が目立つ。 (※例えばだが12月10日、毎日新聞報道を参照 http://mainichi.jp/select/news/20141210k0000m040147000c.html )  その主張はもっともで、筆者も異論はない。しかし、常日頃から情報公開請求を活用してきた筆者にとっては、既存の情報公開制度においては、マスコミ報道でこれまで語られなかった病理現象があると思っている。資料にあたって現状を観察すれば明らかになるのだが、情報公開制度は広く市民が活用しているというよりは、建設業者などが公共団体の建築工事などの競争入札における資料の請求に使われている場合が大半で、いわゆる世間一般のイメージである、権力を監視しようという市民オンブズマンやジャーナリズムによる請求はわずかなのである。  実はいくつかの自治体では、請求件数や内容についてネット上で閲覧できるようになっているのでそれを見てみよう。例えば仙台市の例で見てみる。 ※仙台市の情報公開・個人情報保護 運用状況報告書 http://www.city.sendai.jp/shisei/__icsFiles/afieldfile/2014/01/21/24.houkoku.pdf  最新年度の平成24年は請求件数が1066件だが、その中では見積書の件数が多いことが特筆されている。  そして、「公文書開示請求の内容及び処理状況」という表を見ると、こちらでも建築関係の業者が利用していることがわかる(なお愛知県などもウェブサイトで情報公開請求の内容を公開しており、国の機関へも「平成25年に国土交通省へ到達した行政文 書開示請求書の内容を知ることの文書」といった書き方で、他人が出した情報公開請求の内容を情報公開請求することが出来る)。
公文書開示請求の内容及び処理状況

公文書開示請求の内容及び処理状況

 問題なのは費用の徴収だ。国とほとんどの自治体では文書の公開手数料は1ページ10円となっている。にもかかわらず、営業秘密・個人情報 などの不開示情報部分を除いて開示するために、税金で雇われた公務員が少なくない時間を使って公開のための作業をすることになるので、一部の建設業者の業務の利便のために、間接的にとはいえ税金が使われていることになる。  情報公開請求というと、マスコミがネタを探したり、市民オンブズマンなどが政治について見解を表明するために利用しているというイメージを 持っている人にまったく予想外だったのではないか。  だが実はこうした現象は日本だけで生じているわけではない。  例えば米国でも、日本で情報公開制度が出来る以前から問題になっていたのだ。その対処法としてアメリカでは、手数料の徴収基準を(1)報道などの公益目的と(2)商業目的で分けるようにしている。例えば、CIA のホームページを見てみよう(※CIAにも情報公開請求専門のウェブページがあって、お問い合わせフォームをとおして世界中から情報公開請求 が出来るようになっているのだ) http://www.foia.cia.gov/fees-and-waivers-foia  これによると、商業目的で情報公開請求をしたら、当該文書を探す際の費用としてはアナログな手法でやる場合に人件費として1時間あたり18ド ル(今の為替で2000円くらい)を請求することとしており、さらにそれをどこまで公開するかの検討に別途費用を徴収した上で、コピー1枚あ たり10セント(10円ちょっと)を請求するとなっている。  さらにだが、アメリカ連邦法の運用では「誰が請求したか」自体も、開示・公開の対象となっている。おそらくこ れは、もともとが「政府の行為について是非を議論するために市民が一種の政治参加を行うのだからその限りにおいて公人となって、氏名は明らか にするべきである」という考え方に基づいていると思われる。  いっぽう日本だと前述の通り、請求した個人の名前などは個人情報として開示・公開がされない。だが、これだと公的機関に人件費を使わせてコピーな どを取らせ、それで公益目的ではなく私企業の利益のためだけに利用しようとする目的の請求が跋扈してしているのだ。  こう考えると、商業利用以外の場合、個人に対する公権力やメディアからの圧力や追求を避けるためにも匿名性を守る必要はあるだろうが、少なくとも商業利用に関しては、誰が請求したかまで行政機関は公開・開示をすることも考えるべきではないだろうか? おそらくはそれで一定の歯止めが商業利用(自分の会社も、ビジネ スとして情報公開を使うことにチャレンジしているが)にかかるので濫用的な請求は減るはずである。  情報公開制度の改正は必要と筆者は考えている。しかしこれは、多くの人にとって意外な結論かもしれないが、税金の浪費を防ぐためには「制度を開示請求者に対して厳しくする」方向での改正である(無論、商業目的か公益目的かを判断する基準をどうするかなど、検討課題はいく らもあるが他所の国で出来ていることなので日本で不可能とは思われない)。 <取材・文/江藤貴紀 (エコーニュース:http://echo-news.net/)> 【江藤貴紀】 情報公開制度を用いたコンサルティング会社「アメリカン・インフォメーション・コンサルティング・ジャパン」代表。東京大学法学部および東大法科大学院卒業後、「100年後に残す価値のある情報の記録と発信源」を掲げてニュースサイト「エコーニュース」を立ち上げる。