夜もにぎわうダマスカス旧市街
6年ぶりのダマスカスの町並みは、昔と変わらない。むしろ20年前に筆者が暮らしていたころにさかのぼったような感じもした。しかし人々の様子は、戦時下で感じるような緊張感がなく、日常をエンジョイしている。ダマスカスの旧市街や「マールーラー」というキリスト教の古い村にも、現地の観光客があふれている。
ダマスカス国際見本市も同時期に開催されていた。展示されているものは、重機や工場で使うような部品などが中心だったが、まるで遊園地に来るような感覚で子連れの家族たちがたくさん詰めかけていた。
もしイドリブの総攻撃が始まれば、家族の中で徴兵されている兵士らが命を落とすかもしれない。アメリカが空爆するかもしれない。というのに、人々の楽しそうな様子には違和感があった。そんな中で、シリアのメクダド外務副大臣に面会することができた。
「イドリブに関しては多方面の勢力とも交渉しており、武力衝突は避けたい。おそらく我々の交渉は成功するだろう」と外務副大臣は語る。
当時まだ拘束中だった安田純平氏に関しては「我々は日本と友好関係を築いてきた。日本のジャーナリストがテロリストに拘束されていることは残念だ。日本政府からも働きかけがあり、できる限りの協力をしたい」という。
何人かの専門家にも話を聞いたが、「イドリブの総攻撃はしないだろう」という意見が大半だった。一方、インターネットでは「アサド政権がイドリブ県で化学兵器を使った場合、米政府は大規模な軍事攻撃を用意している」といったニュースが流れていた。
『日経新聞』は、ホワイトヘルメッツ(シリアの民間防衛隊)が配信した写真に以下のようなキャプションをつけて、すでに化学兵器が使われているかのような印象を読者に与えた。
「シリア政府軍の空爆で白煙が上がるイドリブ近郊の村(9日)=ホワイトヘルメッツ提供・AP」
「イドリブの攻撃はない。安田純平氏も巻き込まれない」と確信
殉職した兵士たちの写真
ダマスカスの旧市街のバーブトゥーマに隣接するジョーバル地区に入れば、建物は激しく攻撃され、廃墟が続いている。筆者が軍に案内してもらったのは、破壊された学校だった。ここをイスラム過激派が基地にしていた。
瓦礫の中に入っていくと地下道があった。1.4㎞に及ぶ地下道は、戦車も通れるほどの大きさで首都ダマスカスへと迫っていたのだ。「こんな大規模な地下通路を、テロリストだけで造れると思いますか?カタールが背後で支援しているんです」と兵士が説明した。
ダマスカス近郊から執拗に攻撃を仕掛けてくるから、アサド政権もここまで激しく反撃しなければならなかった。町で出会った人々が異様に楽しそうだったのは、つい最近まで続いた激しい紛争による緊張感からの解放感だったのだろう。
破壊されたダマスカスのジョバル地域に戻ろうとする避難民
一方、イドリブではすでに「テロリスト」たちは封じ込められ、トルコが支配している。激しい戦闘を仕掛けて自軍の兵士を失うよりも、トルコと交渉すれば済むことは明確だ。みな、戦いにはうんざりしている。
「イドリブの総攻撃はないから、拘束中の安田氏がそれに巻き込まれることもない」と筆者は確信した。