沿線自治体が日高線全線復旧断念も、長引く路線存廃議論で絞まるJR北海道の首

 11月17日、JR北海道日高本線で沿線など7町の臨時町長会議が「全線復旧」を断念することで合意した。(参照:JR日高線「全線復旧」は断念 地元7町長会議 -毎日新聞)  苫小牧駅を起点に日高地方の海岸線を走って様似駅までを結ぶ日高本線は、’15年1月に高波の影響で路盤の土砂が流出し、以来鵡川~様似間が不通になったままとなっている。その間、JR北海道が経営難から単独維持困難線区を発表。さらに日高本線の復旧断念とバス転換の方針などが伝えられてきた。

JR北海道VS自治体の流れは続く

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 当然、沿線自治体は反発をするわけで、JR側との協議が続けられてきたが、今回の自治体による「全線復旧断念」によってこうしたJR側と沿線自治体の綱引きもひとまず幕引きになるのだろうか? 鉄道ライターの境正雄氏は「まだまだ結論が出るまでには時間がかかりそう」と話す。 「誤解があるかもしれませんが、今回の“全線復旧断念”の報道は、あくまでも沿線自治体の意見が一致したというだけのこと。JR北海道は長期不通が続いている鵡川~様似間をすべて廃止してバス転換する方針ですが、自治体側が今回合意したのは鵡川~日高門別間は鉄道で復旧し、残る日高門別~様似間の復旧を断念するというものです。今後は鵡川~日高門別間の復旧を求めてJR側と協議を続けることになるでしょう」  つまり、現時点ではまだ何も“決まっていない”というわけだ。今後の見通しはというと、JR側は“経営難によるコスト削減”という理由から路線の廃止・バス転換という立場は崩さないと見られ、鵡川~日高門別間の復旧を求める自治体側と簡単に折り合うとは思えない。’15年以来続いている綱引きは、まだまだ続くことになりそうだ。 「日高本線に関してはこれまでも道路と線路上の両方を走れる『デュアル・モード・ビークル』の導入など、さまざまな意見が浮上しては消えてきました。しかし、結局4年近くたっても沿線自治体間の温度差もあって結論が出ていない。この“何も決まらない”という状況は、日高本線に限ったものではなく、JR北海道の路線存廃問題はほとんどの区間でなにひとつ進展していません。北海道新幹線が莫大な赤字を生み出していることも考えれば、このまま“決まらない”状況が続くとJR北海道の資金繰りにも影響を及ぼしかねません」  JR北海道が「『当社単独では維持することが困難な線区』について」という資料を公表し、収支が著しく悪い線区を中心にバス転換などを前提とした協議を開始するとしたのは’16年11月。ところが、それから今に至るまでに沿線自治体との協議が一定の結論を得たのは石勝線夕張支線と札沼線北海道医療大学~新十津川だけである。  そのうち夕張支線に関しては以前から夕張市側が廃止を受け入れる方針を示していたし、札沼線は特に末端区間の浦臼~新十津川間が一日1往復だけという超閑散線区。いわば、もとより特殊事情を抱えていた線区しか結論が得られていないということだ。いったいなぜ、こうしたことになっているのか? 「個々の線区ごとにさまざまな事情があるでしょうが、ひとことで言えばJR側と沿線自治体、そして北海道との間に信頼関係が築かれていないことが最大の理由だと思います。廃線や自治体からの資金援助などは、当然自治体から反発を受ける。ですが、それ以前から沿線の活性化などで自治体とJR側に信頼関係があれば、協議すらまったく進展しないということはないはず。JR側が一方的に廃線を掲げて『沿線の協力が不可欠』と言い募り、自治体側は『JRは公共交通機関を担うものとして不誠実』と反発する。それでは何も解決しないのも当然です」  ある道内の沿線自治体の関係者は、「これまでこちらが沿線活性化のために協力を求めても、JR側はほとんどゼロ回答。それどころか運転本数の削減など利便性は年々低下する一方でした。それが経営難が表面化したからといって急に『沿線の皆様と』などと言い出しても……」と不満を顕にする。
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選挙対策で自治体の反発増
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