反ボルソナロ運動は世界的アーティストも参加したが……
軍隊出身のボルソナロ氏は銃の自由化に熱心で、それゆえ選挙キャンペーンでは「悪い奴らは銃でぶっ放つ」と、カメラの三脚をマシンガンに見立てて撃つ真似をするパフォーマンスまで披露していた。そんななか、9月6日にボルソナロ氏はキャンペーンでの街頭講演先で、暴漢に胸を刺されてしまう。これで同情票が強まり、選挙戦が有利になってしまった。
ブラジル国内の女性たちがそんなボルソナロ氏に対して強い危機感を覚え、反対運動「エリ・ノン(Ele Nao=彼ではダメ)」を起こしたのはそれから間もないことだった。彼女たちはフェイスブックやインスタグラムにハッシュタグ「#elenao」をつける抗議運動を展開。この運動のフェイスブックの公式サイトはボルソナロ氏支持の保守的な男性たちからハッキング被害に2度も遭いながらも支持者を200~300万人に増やした。
また、ブラジル国内の女優や女性シンガーたちもこの運動に参加。そこには、リオ五輪の開幕式で歌を披露し話題になったアニッタや、あのサッカーのスーパースター、ネイマールの恋人として知られた女優のブルーナ・マルケジーニの名もあった。
彼女たちはボルソナロ支持者たちからSNSで執拗な嫌がらせを受け、YouTube上での「エリ・ノン参加表明」の動画には、ハッキングで100万人分の「よくないね」がつけられるなどした。だが、彼女たちはそれに屈しなかった。まだ9月の時点でボルソナロ氏は30%前後の支持率だったが、不支持率も40%も超えていた。
そんなブラジル女性たちの行動に、やがて世界も注目した。9月20日くらいになると、欧米の新聞や経済誌などがボルソナロ批判を展開しはじめるが、それに目をつけた有名アーティストらが「エリ・ノン」を表明しはじめたのだ。キッカケは、現在のイギリスでトップの人気を誇る女性シンガーのドゥア・リパ。それに現在世界屈指の人気のアメリカのロック・バンド、イマジン・ドラゴンズのヴォーカル、ダン・レイノルズがそれに続いた。
すると、9月末までにヒップホップ界の大物ブラック・アイド・ピーズや、自身も男性に性転換した娘を持つ大御所歌手・女優のシェール、さらにあのマドンナまでが加わった。その勢いのもと、9月29にちにはブラジル全土の60都市以上に加え、ニューヨークやロンドン、パリなどでも「エリ・ノン抗議集会」が開かれ、アンチ・ボルソナロ運動は頂点に達したかのように見えた。