徴用工判決の背後にある安倍首相の危険な対韓外交<菊池英博氏>

11月4日にBloombergが行ったインタビューでも元徴用工への補償は「韓国側に責任」と語っていた河野太郎外相。沈黙を守っていた韓国政府も6日に生命を出してこれらの河野外相の発言を批判(photo by Kentaro Takahashi/Bloomberg via Getty Images)

 10月30日に韓国大法院(最高裁判所)は、韓国が日本の植民地支配下にあった時代に徴用された原告に対して、「雇用者であった新日鉄住金に対して損害賠償を命じる判決(ひとり1000万円)」を下した。  この判決を知るや否や安倍首相は直ちに、「この問題は1965年の日韓請求権交渉で完全かつ最終的に解決した」と主張し、河野太郎外相は韓国のイ・スファン駐日大使を外務省に呼びつけ、「日韓の未来志向の関係に努力をしてきたが、(今回の判決は)極めて心外だ」「判決は日韓の友好関係を根本から覆すものだ、韓国政府は直ちに必要な措置を取ってもらいたい」と抗議した。  さらに河野外相は「(今回の判決は)国際法に基づいて秩序が成り立つ国際社会への挑戦だ」「完全かつ最終的に終わった話であり、判決は暴挙だ」と述べ、国際司法裁判所への提訴を含めて検討する考えを示した。  これに対して韓国政府は、1週間たっても沈黙を守ってきたが、6日夜に声明を発表し、韓国大法院の判決に対する河野外相の発言について、「問題の根源を度外視したまま、わたくしたちの国民感情を刺激していて、非常に憂慮している」「過剰対応で非常に遺憾だ」と述べ、逆に河野外相の発言を批判したため、日韓両国の対立は深まる様相を呈してきた。 「問題の根源を度外視したまま」という韓国政府の声明文に、本質を知る道があるのではないか。 「問題の根源」が日本側にあるように受け止められるので、2012年12月以来の第二次安倍政権の対韓外交を振り返ってみよう。

第一の「問題の根源」、慰安婦問題

「第一の根源」は慰安婦問題だ。慰安婦問題は、村山内閣の官房長官だった河野洋平氏が1993年に発表した河野談話(「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話」)で解決済みであった。  河野談話の要旨は、「慰安婦の設置は日本軍が要請し、直接・間接に関与したこと」「そのため、甘語、強圧による等によって本人たちの意志に反して集められた事実が数多あり、痛ましいものであった」と謝罪している。  ところが2014年3月23日のテレビ番組で、自民党の総裁補佐官であった萩生田光一氏が「新しい事実が出てくれば新しい談話を発表すればよい、(安倍首相も新談話を)どこでも否定していない」「検証結果によっては新たな談話を発表すればよい」と述べた。その後、安倍首相は国会で、「河野談話を継承する」と発言したが、この事件によって日韓関係は大きく損なわれた。  その後2015年12月28日に突然、岸田外相と韓国の尹外交部長官との間で、慰安婦問題に対する「日韓合意」が成立し、安倍首相は「慰安婦問題に官憲・軍部が関与していたこと」を改めて認めて、慰安婦への謝罪の気持ちを表現した。同時に韓国政府が元慰安婦支援のため設立する財団に日本政府が10億円を拠出し、両国が協力して行くことを確認した。  この声明後ただちに、米国のケリー国務長官が合意を評価する声明を出したので、「事前に米国から和解の勧告があったのではないか」(某自民党首脳)との声が聞かれた。  安倍側近の発言が一旦河野談話を否定し、韓国民を傷つけたうえで、再度、河野談話を認めることになり、「寝ている子」を起して韓国国民の感情を害しただけの結末であった。
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第二、第三の「問題の根源」
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月刊日本2018年12月号

特集1【移民特集 奴隷扱いされる外国人労働者】
特集2【米中新冷戦勃発、どうする日本! 】
特集3【徴用工問題と向き合う】
【特別対談】亀井静香VS志位和夫