ロボット義足をつけて立ち上がった乙武氏の映像に、会場は息をのんだ
シンポジウムでは、開発の裏側を捉えたショートムービーも上映された。はじめは短かった義足が、少しずつ長くなり、無骨だったデザインも洗練されていく様子は圧巻。見事、乙武氏は7.3メートル歩くことに成功した。
しかし、同時に乙武氏の努力があったことも忘れてはならない。最新技術が投入されているとはいえ、義足をつけてスタスタ歩けるほどは甘くないのだ。
ちなみに乙武氏は以前も義足に挑戦したことがあったそうだが、それも長く続かなかったという。
「5、6歳の頃、2年ぐらい練習していた時期はあったんですよ。あと義手もつけて、結構真面目にやっていたんです。だけど結局、どちらも生身の短い手、短い足を使って何かをしたほうが楽だし、早かったんですよね。たとえば字を書くのも、義手を使って鉛筆なりペンを挟んで書くより、私はほっぺたと短い左腕の間でペンを挟んで字を書くほうが時として上手に書けた。義足も、装着して数メートル歩くより、車椅子から降りてひょこひょこ自分の足やお尻を使って歩くほうがよかったんです」(乙武氏)
今回、ロボット義足に挑戦したときも、さまざまな課題が浮かび上がった。
「まずは怖い。普段は電動車椅子に乗っていて、安定感がよく、転げ落ちることはない。ただ、ロボット義足はみなさんの感覚でいうと高い竹馬に乗っているようなイメージかなと思います。物としては素晴らしいものができているんですけど、まだ僕がフィットしきれていないので不安定です。なにより、もし手があれば転んだ時に手をつけるんですよ。その手もないので、もし転んだ場合、顔面で受け止めるしかない。その恐怖感は、正直まだ克服しきれていないですね」
「仕事がなくて暇だから引き受けました」と聴衆の前でおどけてみせた乙武氏だが、7.3メートル歩くだけでもかなり訓練と努力が必要だったのだ。
義足をつけて歩くには、かなりの訓練が必要だった
今後、さらにロボット義足、そしてAI技術を発展させていくことについても、強い思いがある。
「メガネについて、『テクノロジーはすごいよね』と思う人は今の時代誰もいないはずです。でも、できたばかりのときは便利だったでしょうね。だって目が悪くなり、ものが見えなくなり、すごく困っていた人々が初めてメガネをかけた時の感激って格別なものがあったはずです。今はそれがあまりに普及して、誰もテクノロジーのおかげでとは思わなくなった。ロボット義足がもっと進化すれば、脚がないことを誰も障害ですと言わなくなる時代が来るかもしれません。そんなプロジェクトだと思って、これからも挑戦していきたいです」
日夜進歩を続けるAI技術。東京五輪の聖火ランナーで乙武氏が走る姿を見ることはできるのか? 今後も注視していきたい。
<取材・文/林 泰人(本誌) 撮影/赤松洋太>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン