ポーランドは元々、愛国心の強い国で、独立記念日は日本にとっての建国記念日とは比べ物にならないほど、はるかに重要な意味を持っている。1918年11月11日、第一次世界大戦が終了する日まで、ポーランドはドイツ、オーストリア=ハンガリー帝国、ロシアの3か国によって分割され、約123年間、国土が消滅していた。ポーランド語を禁止され、抑圧されながらも不屈の精神で独立を諦めず戦い続けたポーランド人だったが、独立の喜びも束の間、その後の100年も受難が続く。第二次世界大戦では再びドイツとソビエト連邦に国の両側から攻め込まれ、国土が戦地と化し、約560万人の国民が命を落とした。
またナチス・ドイツ軍によってユダヤ人強制収容所が複数建設され、ホロコーストの主な舞台にもなっている。戦後はソ連の影響下で共産主義国家となり、再び自由を手にしたのは約40年後の1989年のことである。これだけの苦難に見舞われながらも自らの手で国を取り戻すことを諦めなかったポーランド人にとって、愛国心こそが国民をひとつにするものであり、独立記念日は特別な日なのだ。
ただし、国家主義と排他主義は常に隣り合わせである。11月11日同日にフランス、パリで行われた第1次世界大戦終戦100年の記念式典で、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は「『自らの利益が最優先で、他人はどうでもいい』と言うことで、あなたがたは国家が持つ最も大事なもの、道徳的価値を踏みにじっている」と述べ、ヨーロッパ各国で台頭している国家主義勢力を牽制した。
ポーランドも右傾化が進んでいるとはいえ、現政権に反対する国民も多く、たびたび大規模なデモが起こっている。今年の独立記念日では、1枚の写真がポーランド国内で大きな注目を集めた。
ポーランド人写真家アダ・ジェリィンスカ(29)が、ワルシャワ中心地にあるホテルから撮影した独立記念日大行進の写真だ。行進の狂騒から距離をとって眺める女性の姿が象徴的で、この写真はSNSやネットメディアによって数千回以上シェアされている。写真から伝わる国民の分断された心は、国境を越えて多くの人々に共感をもたらすのではないだろうか。
愛国心とその表現の仕方、そしてそれを巡る政治状況という複雑な問題は、今後も欧州各地だけでなく世界中で議論されることになりそうだ。
<取材・文/平井ナタリア恵美>