ずいぶんと手厳しい指摘だが、冒頭の鉄道ファンはトラブルに巻き込まれた経験をこう振り返る。
「以前、終電間際の電車が人身事故で停まってしまったことがありました。私はしょうがないので駅のまわりをうろうろして時間をつぶしていたのですが、当然改札にある窓口は大行列。駅員に詰め寄らんばかりの人もいました。そこで驚いたのですが、改札窓口のそばには数人の警察官の姿があったんです。警察官に聞いてみると、『事故で電車が停まるとすぐに駅から『乗客とのトラブルがあるかもしれないからと呼ばれるんです』と言っていました。数年前のことなので、今はわかりませんが、乗客のことをどう思っているのか……。正直、疑問に思いましたね」
電車が停まったからといって駅員や車掌を怒鳴ったり手をあげたりするのは言語道断。そうした輩に対しては警察が介入してしっかりと対応するのは当然だ。しかし、電車が停まって再開の見込みも立たないとなれば、乗客がイライラするのも自然な反応だろう。利用者による駅員へのハラスメントが発生しかねない状況でありながら、同時に駅員による利用者への説明も求められるとなれば、課題が山積みになるのは無理もない。
関東大手鉄道会社の元駅員にも話を聞いた。
「他社の路線で人身事故があったときに迂回ルートを駅員に訪ねたところ、『保証はできませんが、たぶんお待ちいただいたほうが迂回するより早いと思います』と説明してくれた。可能性を踏まえて選択肢を用意してくれたことに驚きました。私の場合は、『“かもしれません”の情報を伝えて、あとで責任を取れと言われるとまずいから、確実なことしか言うな』と上司に言われていましたから……」
現場で板挟みになる駅員、ひたすらストレスが増す利用者……。計画運休は台風などの自然現象が原因なだけに、混乱を呼ぶ“戦犯”を見つけようとするのは褒められた行為ではないが、鉄道ライターのM氏はまだまだ対応できる部分もあると指摘する。
「以前から鉄道会社の情報提供力の不足は指摘されてきたこと。東日本大震災で首都圏の帰宅難民が問題になってから、各社で徐々に情報提供のあり方が見直され、改善されるようになりました。SNSでこまめに運行情報を提供している事業者が多いのはその表れでしょう。また、JR東日本をはじめ、多くの事業者が列車の走行位置が表示されるスマホアプリをリリースしています。ただ、そのなかでもJR東日本の情報提供の“甘さ”は有名な話。一か月経ってから『計画運休は前日に』と言い出したのは、その甘さが如実に表れていると言えますね」
はたして、これから鉄道の運休やトラブルに際しての情報提供はどうなるのか? 冬が来れば、大雪で鉄道ダイヤが乱れることもしばしば起こると思われる。大雪が予想されれば計画運休が検討されることもあるだろう。そうしたとき、あらためてこれまでの経験を踏まえた“情報提供のあり方”が問われることになりそうだ。
<取材・文/境正雄>