タイで活躍する日本人サッカー選手を悩ます問題とは?

日本人選手を悩ます「契約」問題

 日本人選手がタイでサッカーをするにあたって直面する大きな問題は契約だ。毎年、シーズン前、あるいはシーズン中にキャンプに参加してテクニックを認められることで選手は契約を取る。もちろん契約獲得自体も困難ではあるが、問題は入団したあとに起こる。  かつてタイでプレーをしたA氏は、契約書に明示されていた特別給が一方的に停止になった。 「メインスポンサーが開幕前にチームから離れ、勝利給や出場給がシーズン途中で一方的にカットされました。抗議をするも、契約を交わした責任者は解雇したのでその契約書も無効、と返されました」  タイ人は「契約」ということに無頓着なところがある。サッカー以外では、正規ディーラーで新車を購入しようと契約したが、納車されたのは中古車だったという話がよくある。  あるケースでは、納車直前直後に担当営業は辞職しており、ディーラーに抗議したところで「契約はあなたと営業担当がしたもの」と返されたという。  また、筆者のタイ人の知り合いは事業拡大で銀行に融資を頼み、承認されたものの現金は営業担当が持ち逃げ。銀行側は無関係と主張した。これで多くの人が裁判を起こさず泣き寝入りするので、タイ人は被害者・加害者の双方が「契約」とはなんであるのかとしっかり考えていないことがわかる。
タイのサッカー

専用スタジアムを持つチームもあれば、陸上競技場を利用するチームなど様々

大富豪オーナーのワンマンぶりにショック

 契約関係の問題はほかにもある。これは、オーナー自身が特権階級クラスの大富豪か、社会的地位が非常に高いケースに多い。あるチームで数シーズンほどプレーしたB氏はオーナーの傍若無人ぶりに振り回され、給料もまともに払ってもらえなかった。 「例えば、2011年シーズンです。この年は洪水災害でリーグが2か月間中断しました。この期間の給料は未払いでした。ちょうど選手などの大きな引き抜きがあったため、当然移籍金が発生していたはずです。選手たちはここから我々のサラリー分が払われると思っていたのですが、オーナーはそのお金で洪水対策の船を20隻ほど購入して社会貢献してしまいました」  悪い言い方をすればオーナーは選手を駒あるいは道具程度にしか思っていない。中には選手の起用や戦略に口を出すオーナーもいて、監督がお飾りでしかないチームもあった。ある選手は「オーナーがベンチに入って、キックオフ前の円陣でみんなを鼓舞したりするのは日本では考えられない光景で、カルチャーショックを受けました」と言った。
タイのサッカースタジアム

銃社会のタイでは現職警官がスタジアムに張り付き、トラブルがあれば飛んでくる

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)> たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『バンコクアソビ』(イースト・プレス)
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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