「MK」はタイ料理店として1962年に創業した店が原型となる。元々は香港人マコン・キン・イーの中華料理店で、この人物がアメリカに移住する際にトーンカムおばさんが引き継いだ。この香港人のイニシャルから「MK」となっているわけだ。トーンカムおばさんは当初、普通にタイ料理を出していたが、1986年に「タイスキ」を売り出して大ヒットした。
大きな商業施設だと数軒入店している「MK」
「タイスキ」の有名チェーンではほかに「コカ・レストラン」がある。こちらはタイ人には好まれず、事業としてもタイ国外のレストランや輸出用インスタント麺などの売上が好調だという。
タイ人は圧倒的に「MK」を好む。それは「コカ」と比較して「MK」の方がタレの味がおいしいという理由だ。食材などほかの要素は似たり寄ったりなので、タイ人にとって「タイスキ」の要はタレにあるようだ。タイ人はトーンカムおばさんのように、中年女性を好む。日本で言う「おふくろの味」みたいなもので、実際、スーパーなどで売っている各種ソース関係の銘柄は大体中年女性の顔がトレードマークになっていたりする。
そんな「MK」が最近、従来のオリジナルのタレだけでなく、ポン酢まで用意し始めている。黒酢なのか黒い見た目だが「ポン酢」と店員に言えば普通に通じる。「MK」はスープこそ透明なもので薄味なので、それがよりポン酢に合っていて、日本の鍋料理を楽しんでいる気分になれる。
ちなみに、このポン酢、「シャブシ」にもある。
「MK」に用意されていポン酢。店員にもポン酢で通じる
「シャブシ」のポン酢は店によって大根おろしがインの場合と、別々の場合がある
食材も牛肉や豚肉のスライスっぽいのは以前からあったが、あくまでもタイの肉といった品質だったのが、しゃぶしゃぶに近づけるためかきれいに切ったスライスもラインナップに加わっている。豚肉に関して言えばタイ産だが「クロブタ」、つまり黒豚も選べる。
特別メニューの黒豚。「MK」は昔から日本語併記なので、注文もしやすい
このように「和食ブーム」が食に関しては保守的なタイにおいても強い影響力があり、本来は名前以外は和食とは関係のなかった「タイスキ」までもが今になって日本料理に接近しつつある。タイ人は食事時にはあまりアルコール類を嗜まない。だから冷蔵庫にずっと収まっているからなのか、「MK」はいつ行ってもキンキンに冷えたビールを楽しめる。そういう意味で、チェーン店とは侮らず、タイに来たら「MK」で食事とビールをぜひ楽しんでいただきたいと思う。
<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:
@NatureNENEAM)>
たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『
バンコクアソビ』(イースト・プレス)