UAEにとって初の国産衛星、そして大統領の名前を冠したきわめて重要な衛星の打ち上げに、H-IIAが選ばれた理由はいったい何だったのか。
三菱重工の小笠原宏氏(防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 副事業部長)は、「打ち上げ成功率が高いこと、そして決められた時間にしっかり打ち上げる『オンタイム打ち上げ率』が高いことが評価されたのでは」と分析する。
またUAE側の関係者も「日本製は品質が高いという印象がある。日本のロケットなら成功の可能性が最も高い、確実に期待を満たしてくれる、と判断した」と、これを裏付けるコメントをしている。
UAEへは以前より、日本企業が多数進出し、三菱重工もドバイの地下鉄などに関わってきた。そうした日本の、そして三菱重工の製品への信頼が後押ししたのはたしかだろう。
ただ、今回の打ち上げ受注は、やや変則的なものであったのも事実である。
前述のように、ハリーファサットはJAXAの「いぶき2号」をいっしょに打ち上げられた。その背景には、H-IIAの打ち上げ能力に対して「いぶき2」が軽く、余力が生まれたため、そこにうまくハリーファサットが収まったという事情がある。
つまり、純粋にH-IIAロケットそのものが売れたというよりは、まず余力で打ち上げられる枠があり、そこにUAE側の希望する衛星の軌道や打ち上げ時期などの条件がうまく合致したというのが正しい。
打ち上げ価格は公表されていないが、「いぶき2号」の”ついで”で打ち上げができるという点から、おそらく破格の安さで提供できたと考えられる。他のロケットよりも高価といわれるH-IIAだが、今回に関しては価格面でも、他に対して大きく優位に立てたのだろう。
製造中のH-IIAロケット40号機 (筆者撮影)
しかしその一方で、2016年には、同じくMBRSCから火星探査機「アル・アマル(al-Amal)」の打ち上げも受注している。この契約は、今回のようにメインとなる他の衛星に同乗する形ではなく、メインはアル・アマルであり、すなわちH-IIAを1機まるごと買うという形で交わされている。
また2017年には、英国の大手衛星通信会社インマルサットからも受注を取りつけている。
火星探査機は、地球から打ち上げが可能な時期が限られており、ある時期を逃すと、次は約2年後まで待たないと打ち上げができない。さらにアル・アマルは、UAEの建国50周年にあたる2021年の火星到着を目指していることもあり、なおのこと打ち上げに遅れは許されない。
また通信衛星も、顧客に通信、インフラのサービスを提供している以上、打ち上げが遅れ、その結果サービス開始時期も遅れることは許されない。
こうした点から、他のロケットより多少高価でも、H-IIAのもつ高い成功率、そして「オンタイム打ち上げ率」が評価され、選ばれたものと考えられる。