研修会場において、「講師の話を注意深く聞いてください!」「内職をしないで、研修に集中してください!」「寝ないでください」という注意事項はよく目にするもの。しかし、主催者がそういった注意を羅列したり、会場内の監督が居眠りや内職を監視・注意しに来る研修は最悪だ。参加者が内職をしたり、寝てしまう研修は参加者が悪いのではない。講師が悪いのだ。
研修が始まる前に、講師が参加者の一人一人と名刺交換や会話をすることで、参加者を少しでも巻き込んでおけば、かなりの確率で参加者の集中・関心度の低下は防止できる。
しかし、なかには名刺交換をしようとしても、名刺を持参してきていない人もいる。それは、とてももったいないことだと思えてならない。何も、私と名刺交換しないことがもったいないことだと言っているのではない。外部講師が来て研修するという際に、名刺交換をして、直接会話できる機会を損なってしまいかねないからだ。
たとえば私の場合は、名刺交換をしたうえで、研修の最中や最後に「質問があれば遠慮なくメールをくださいね」ということを申し上げている。そうして毎回、研修後に数人の方からメールをいただく。そうしたやりとりにおいては、私にとっても新たな気づきがあって、たいへん助かることが多い。
もちろん、研修には参加するが、外部講師と名刺交換まではしたくないと、あえて名刺を差し出さない人もいるだろう。そういうことであれば、それはそれでまったく問題ない。私が自ら、「もしよろしければ、名刺交換していただけますか」と話しかけているのはそのためだ。
名刺交換は、参加者一人一人の自由意思で行えばよい。しかし、研修主催部門や研修事業者が、個人情報管理に敏感になり過ぎて、“名刺交換禁止令”を出すことには反対だ。研修そのものの効果を左右するのはもちろん、講師と参加者の能動的な結びつきを阻害してしまいかねない。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第108回】
【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『
クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある