御用メディアの大罪。新聞は「権力の監視」の役割を失った<倉重篤郎氏>

自民党総裁選立候補者討論会。日本記者クラブのYouTubeチャンネルより

『新潮45』の休刊を受けて、『月刊日本』11月号は「御用メディアの大罪」と称する大特集を打ち出している。  同特集は、冒頭で出版業界を取り巻く不況の中、露骨に安倍政権に阿る新聞や雑誌が目立ってきたことと、安倍政権側もまた、選挙の度にメディアに「公平中立」な報道を求めると同時に、政府広報予算を増やして新聞社やメディアの幹部と会食を繰り返すなど「メディアと権力」の距離感がおかしくなっていると指摘している。  権力の不正義を真正面から批判する健全なジャーナリズムの喪失は、日本にどのような未来を付きつけるのか? 不正義に立ち向かう本分を忘れたメディアに存在意義はないと断ずる『月刊日本』11月号の特集から、先の総裁選における討論会で安倍総理に鋭く切り込んだ毎日新聞専門編集委員、倉重篤郎氏へのインタビューを紹介したい。

「関係した」の意味を自由自在に狭めてごまかす安倍総理

── 今回の自民党総裁選でも、自民党は新聞社と通信社に「公平・公正」な報道を求める文書を送りつけました。それに合わせて、一部の新聞が安倍政権を擁護するような記事を掲載しました。今、マスメディアと権力の関係が問われています。こうした中で、9月14日に日本記者クラブ主催で行われた安倍総理と石破茂元幹事長による総裁選討論会で、倉重さんは安倍総理に鋭く切り込みました。 倉重篤郎氏(以下、倉重): 私は、国民が一番聞きたいことを代弁して聞くのが記者の仕事だと思っています。安倍さんを三選させるか否かで何よりも国民が知りたいのは、森友学園、加計学園問題の真相と、政権の弁明が本当に信じられるのかどうか、ということだと思いました。  いくつかの成果があったと思います。  その一つは、モリカケ問題に関する安倍さんの答弁の融通無碍さというか、いい加減さが浮き彫りになったことでした。  例えば、森友問題で安倍さんがよく強調する「私も妻も関与したということは一切出ていない」という言い方。これに対しては昭恵夫人が、森友学園が建設を予定した小学校の名誉校長に就任していましたし、同学園の国有地取引をめぐり、昭恵夫人の秘書が財務省に対して照会していたことを挙げ、「幅広い意味でいえば(安倍首相と昭恵夫人は森友問題に)関係があったと思います。安倍さんの言い方は賄賂を貰ったとかという形では関係がなかったとし、自由自在に『関係』を狭めて答弁している。そこが国民の不信を呼ぶのだと思う」と指摘しました。  加計学園の獣医学部設置についても、安倍さんは「プロセスにおいては一点の曇りもない」とこれまでの主張を繰り返したので、私は「柳瀬唯夫首相秘書官が、わざわざ(加計側を)官邸に呼んで助言をしている。そんなことは普通ありませんよ。『一点の曇りもない』という言葉とはあまりにも隔たった事実だと私は思う」と追及しました。  安倍さんは、「いろんな話をごっちゃにしている」「私は答弁を変えていない」と強弁するだけでした。 ── 安倍総理の回答は、結果的に国民の不信感をさらに強める結果になったと思います。倉重さんは、さらに安倍総理の政治責任についても厳しく追及しました。 倉重:問題は、行政のトップが行政行為を行なう中で、結果的にお友達を優遇したことにあります。犯罪として立件はされませんでしたが、道義的な問題があります。しかも、国民の代表である国会に対して、事実上の虚偽答弁を1年以上も続けました。そこで私は、「非常に重要な政治責任を抱えた問題です。ある意味、総理大臣の任を辞してもおかしくないぐらいの重要な問題です。安倍さんの頭の中に、その辺のことがちらりと頭をかすめたことはあったのですか」と質問したのです。  これに対して、安倍さんは昨年10月の衆院選挙を持ち出し、国民の信を問いその結果与党が大勝したことを強調しました。つまり、モリカケ問題は国政選挙の洗礼を受けた、と胸を張ったわけです。あの選挙は北朝鮮ミサイル問題や高齢化問題など国難を克服する選挙だったはずですが、実はモリカケ克服解散だったことを自ら明らかにしてしまった。語るに落ちた、というところです。
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権力にすり寄る大手メディア
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月刊日本2018年11月号

特集1【安倍政権の終わりの始まり】
特集2【御用メディアの大罪】
特集3【靖国神社はだれのためにあるか】
【特別インタビュー】田中愛治 「たくましい知性」を社会に送り出す