国会での議論が「出来レース」になってしまう元凶とは?<民意をデフォルメする国会5重の壁・第5回>

国会議事堂

Vertical / PIXTA(ピクスタ)

国会はガチ?

 多くの有権者にとって、国会に議案が提出されて、初めてそれを議論するようになります。メディアも、国会での議論が白熱すると、その議案を詳細に報じるようになり、有権者も次第にそれに関心を抱き始めます。  野党にとっても同様で、国会に議案が提出されてから、問題点の追及を真剣に国会で行います。審議で問題点を明確にしても、政府与党が撤回や修正に応じなければ、審議拒否などの手法を使ってでも止めようとすることがあるくらいです。  ところが、与党にとっては、国会に議案が提出された時点で、必要な議論をすべて終えていて、あとはスムーズに成立させることだけが仕事になります。与党議員にも国会質問の機会はありますが、下手に問題点を明らかにしたり、野党に同調したりしてはいけないため、無難な質問に終始します。  国会をリングに例えると、政府与党はプロレスをし、野党はガチの総合格闘技をしているようなものです。議長や議院運営委員長などのレフェリーは、与党で占めています。多数の与党議員が乱入して野党議員から3カウントを奪っても、レフェリーが反則と認定しなければ、試合成立です。一方、このレフェリーは、野党の反則に厳しかったりします。ときどき観客席(有権者)のブーイングに恐れをなして、政府与党が試合放棄することもありますが、極めて稀です。

与党事前審査

 与党が議案の審議を国会提出前に終えているのは、与党の承認がなければ、政府(内閣)が議案を閣議決定(内閣の最高決定)しないからです。これは、歴代の自民党政府の内部ルールです。憲法や法律に基づく仕組みではありません。  与党の承認プロセスのことを、事前審査と呼びます。自民党・公明党の連立政権になった今でも、この制度は継承されています。  府省(行政)が法案を国会に提出しようとするとき、第一段階は、自民党の政務調査会の部会(特別委員会・調査会を含む)で検討します。部会長は、当選3~4回の議員が務めます。省庁は、法案が未成熟の段階から、折に触れて部会で説明します。局長や部長(審議官)、課長が説明・回答役となり、出席議員から質問や意見を受けます。部会長は、おおむね意見が出尽くしたところで、承認を求めます。  部会の審議では、必要に応じて専門家や関係団体、自治体から意見を聴くこともあります。そこで、支持団体などの意見集約をしています。  次に、政務調査会審議会で検討します。審議委員は、各派閥から推薦された中堅議員が務めます。部会長が行政のサポートを得ながら、説明をします。  最後に、自民党の党議決定をする総務会で検討します。総務には、総裁の任命する総務以外に、派閥や地域を代表する重鎮議員がいます。国会に提出する議案については、政務調査会で審議を終えているため、通常は形式的な議論で終わりますが、ここでストップとなれば政務調査会に戻されます。説明は、部会長が行い、行政の助けを受けられません。  議案について、途中で大きな反対や修正を受けることは、ほとんどありません。なぜならば、行政は議案の未成熟な段階から、大臣や行政に影響力のある有力議員(族議員とも呼ばれます)、部会長などと打合せ(根回し)し、彼らの意見を取り入れ、内諾を得てから、自民党の部会に諮るからです。ある意味、自民党の部会に議案が示された時点で、大筋での議論は終わっています。  それでも、ごくたまに議員たちから反対を受ける議案もありますが、その場合は、部会長や政務調査会長への一任を取り付けて、全会一致の体裁を保ちます。部会などで、反対意見を言わせるだけ言わせて、最後に強行採決のように一任を取り付けるのです。これは、自民党が全会一致を金科玉条のごとく大切にしているからです。  このプロセスを経て、総務会での承認(党議決定)をしてから、議案が閣議で決定されます。国会への提出議案には、閣議決定が必要ですので、与党が審議を終えた議案だけが、国会へ提出されることになります。  そして、国会に議案が提出された後、スムーズに成立させる役割を国会対策委員会が担います。つまり、消化試合を手早く片付ける司令塔というわけです。
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無党派の声を国会に届ける術がない
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