しかし、韓国でのフェイクニュースに対する強硬な姿勢には、別の理由も透けて見える。
それは、先月行われた南北首脳会談である。
先月、平壌で行われた南北首脳会談で、文大統領は北朝鮮の金正恩委員長に「次は必ずソウルに来てください」と話していた。しかしその際、「ソウルにいらっしゃれば、南は歓迎するひとばかりではなく、反対する勢力もいるが、必ず来て欲しい」旨を伝えたと報じられている。
それに対し、金委員長は「(自分が)ソウル市民の皆さんに歓迎されるようなことを、まだ何もできていない」と謙遜してみせたとされている。
南北首脳会談を評価する世論が圧倒的ななか、先述した「エスダー」のように、南北和解ムードを快く思わない保守派が、いまだ多くいるのも事実である。文政権としては、フェイクニュースを規制することによって、そもそもの保守勢力に歯止めをかけたい狙いがある。
これまで韓国政府は、フェイクニュース規制が「表現の自由」を侵害しかねないという理由から、「自律規制」を中心に慎重な姿勢をみせてきた。取り締まりの強化や、オンラインモニターでの管理体制導入、事業者への自主規制基盤の造成など、「予防」には務めるものの、処罰を明確化・厳重化するわけではなく、摘発後の対応はあいまいであった。
文大統領の厳しい指摘を受け、政府省庁は今後、フェイクニュース対策を積極的に見直し、補完するものとみられる。特にYoutubeなど海外ユーザーによるプラットフォームがフェイクニュース流通の経路となっていることから、これに対する規制案も強化される見通しだ。
半ば強引になったとしても、保守勢力を少しでも沈静化できれば大成功だといえよう。
文大統領が狙うのは、フェイクニュースを取り締まった先にある、金委員長訪韓への道、その地ならしである。
<文/安達夕>