また、外国人技能実習制度の問題についての説明を欠き、逃亡した実習生を単なる「不良外国人」とのレッテル張りした番組もあった。これは著しくバランスを欠くというべきだろう。例えば、ある番組ではベトナム人女性が鹿児島県内の実習先から逃げてきたことは説明したが、実習先でどのような扱いを受けていたのか、なぜ逃げたのかなどには触れなかった。
外国人技能実習制度は、最低賃金違反や残業代未払い、パワハラやセクハラ、さらにはパスポートを取り上げた上での強制労働などが横行し、“現代の奴隷制”とも言われている。今年6月に厚生労働省が発表した調査結果によれば、外国人技能実習生が働いている事業場のうち、実に70.8%で労働基準関係法令に違反していたのだという。
もはや制度自体が破綻しているというべき状況で、日本弁護士連合会は10月5日に発表した外国人労働者受け入れに関する宣言の中で、「(外国人技能実習制度は)多くの人権侵害を引き起こしていることから、早急に廃止するべきである」と主張している。
これらの番組の大きな問題点は、さまざまな事情で正規の在留資格を得られていない外国人について、その個人の行いや背景、外国人技能実習生制度のような制度的欠陥を一切配慮せず、一律に「日本から排除すべき悪」として扱っているということだ。その一方で、入管による人権侵害には触れず、入管職員を「悪を排除する正義の味方」と描いているのである。
筆者が特に怒りを覚えた今年6月6日のNHKのクローズアップ現代
紛争地で取材を行ってきた筆者が特に憤りを感じたのは、今年6月6日にNHKが放送した「クローズアップ現代」だ。戦争や迫害などから庇護を求めて日本に来た難民認定申請者の存在を番組中で全く取り上げなかった一方で、法務省・入国管理局の明らかに事実と異なる主張が取り上げられた。番組中、名古屋入国管理局の藤原浩昭局長は、こうコメントした。
「その申請の理由を見ると、『借金に追われている』とか、いわゆる政治難民とは考えられないような理由を挙げて申請をしてくるということが多くみられる。本当に困って、あるいは政治的迫害を受けてというものは、ほとんどありません」
だが実際には、シリアやコンゴ民主共和国からの難民、ロヒンギャなどミャンマーで迫害を受けている人々が日本で難民申請をしている。彼らは、難民受け入れに異常に後ろ向きの法務省によって難民として認定されず、入管の収容所に拘束されることすら珍しいことではない。この間の、入管と各局が結託して放送した番組は、公の電波を使った「ヘイトスピーチ」だと断じられるべきだろう。
それにしてもなぜ、この短期間に入管のプロパガンダ番組が次々と放送されたのか。一連の番組を問題視した『朝日新聞』の取材に対し、入管側は「いずれもテレビ局側からの提案を受け、取材に協力している」と答えている。
しかしSNS上では、「庁に格上げのタイミングなのと、市民の抗議で入管のイメージが落ちている自覚があるからTVに話をもちかけたのかな」とも勘繰られている。というのも、今月24日からの臨時国会で、入管を格上げし「出入国在留管理庁」とする、法務省設置法の改正が審議されるからだ。
ただ、露骨なプロパガンダはかえって批判を招き、立憲民主党の有田芳生参議院議員も「都合のいい一部だけを切り取る特集は、入管行政のプロパガンダに利用されているだけです。短い臨時国会でも法務委員会で取り上げます」とツイッター上で宣言。バランスを欠いた“密着番組”の放送が、入管側にとっては「やぶ蛇」ということにもなりそうだ。
<取材・文・撮影/志葉玲>