データが従業員の働き方・評価を変える 職場の空気を可視化する技術とは
2018.10.29
sponsored
マネジメントや人事にとって、従業員の状況を正確に捉えることは、もっとも重要な要素のひとつだ。しかし、業績はある程度、数値で把握することはできるが、人と人とのやりとりを可視化するのはなかなか難しい。
そんななか、最新技術を取り入れて、人事課題に取り組む動きが起きているのをご存知だろうか? 「人」と「組織」に関する研究機関であるリクルートワークス研究所の城倉亮氏が取り組んだのは、「センサーデバイス」の活用。カードサイズのデバイスを着用することで、音声・動き・場所の情報から、職場でどのようなコミュニケーションが行われているか可視化する試みだ。
同様に、データを用いた取り組みとして、従業員のコンディション変化発見ツール「Geppo」で現場の声を吸い上げ、職場環境や従業員の動きを分析しているのは、ヒューマンキャピタルテクノロジー取締役の渡邊大介氏。
「Geppo」とは月に1度、3つの質問に従業員が答えるだけで、一人一人のコンディションを可視化できるサービス。従業員の不調を兆しの段階で察知できるため、人事担当者は問題を水際で防ぐことが可能だ。
「センサーデバイス」や「Geppo」はいったいどのような情報を集め、職場や業務の未来を変えていくのだろうか? 城倉氏と渡邊氏に話を聞いてみた。
——従業員のコンディション把握やチームマネジメントでは、どんな部分が大事なのでしょうか?
渡邊:変化を見逃さないことです。今までは職場に流れる空気が可視化されておらず、「阿吽の呼吸」とか、日本ならではの「空気を読むカルチャー」が重視されていた。それを定量化してみると、何かとの摩擦がパフォーマンスに影響していたり、コンディションも絶えず動いていることがわかります。
城倉:「Geppo」の場合は、アンケートで従業員の状態を把握するんですよね?
渡邊:そうですね。会社や業界によって変化は違います。可視化することによって、自分の会社がどういう変数値なのか考えることが大事ですね。
城倉:「Geppo」や「センサーデバイス」を使うことで、これまで見落としていた部分が見えてくる可能性がありますね。
渡邊:試験でも、模試を受けて自分の偏差値を見ないと、なかなか一生懸命勉強できませんよね。組織に点数をつけることで、そこに意識が傾くようになる。あと経理や人事の担当者が「人に対して時間を割くようになる」というのもいい変化だと思います。
城倉:「センサーデバイス」を活用した場合でも、結果を見ると自然と組織の内部で会話が生まれます。「もっと話しているはずなのに、思ったより会話が少ないな」などということがわかり、データを見ることで意識的に自分の行動を変えられるようにもなります。
——変化に気づくことで、組織のあり方も変わっていきそうですね。
渡邊:具体的な事例では、ある旅行代理店で一人のマネージャーが異動すると、異動先の組織のコンディションがよくなったんです。それまでは可視化されていなかった変化で、1年間で3つの職場に行くと、すべての組織のコンディションがよくなった。「人間関係の変数が高いマネージャーだ」という仮説が立って、その後、その方は昇進されたそうです。
城倉:パフォーマンスの軸が業績だけじゃなくて、チームの人間関係にも広がっていきそうですね。「センサーデバイス」の例では、コミュニケーションのデータから組織のハブとなっている人がわかるようになるので、「この人はもっと高く評価されるべきなんじゃないか?」という議論も出るようになります。コミュニケーションがデータで可視化されることによって、従業員の評価の仕方も変わってくるかもしれません。
渡邊:「Geppo」でも「あなたの部署の隠れた才能を教えてください」という設問を増やしたところ、人事や経営が気づいていない「縁の下の力持ち」として、意外な人の名前が挙がってきました。その人を「センサーデバイス」でトラックしてみたら、意外とみんなを繋いでいたりするのかもしれませんね。
——人の行動をトラックするという点では共通していますが、「センサーデバイス」と「Geppo」には、活用の仕方にどういった違いがありますか?
渡邊:「Geppo」は ウェブサイト解析ツールのようなイメージです。月に一回程度見ればいいと思うんですけど、毎日見ているとどこかに変化があったのかなど、外部からの影響にも素早く気づくことができる。
城倉:「センサーデバイス」は健康診断のようにある程度の期間でデータを取って、変化をみるといいのではないでしょうか。そういう点では、「Geppo」と「センサーデバイス」では、トラックの仕方が違いますね。
——ただ、多様なデータが集められるようになるいっぽうで、「監視されているようで怖い」という声もあるかと思います。
渡邊:今はオフィス用の監視カメラとかも出ているそうで、それはそれでいろんなデータが取れるんでしょうけど、「怠けるのを抑止する」ことに使われがちですよね。せっかくの情報が間違った方向に活用されていると思います。
城倉:「管理する」というのがこれまでの一般的なマネジメントスタイルですが、「従業員を活かす」「ポテンシャルを引き出す」ためにデータをどう使うかと考え方を切り替えられるとよいのではないでしょうか。
渡邊:テクノロジーの進化と文化のキャッチアップには5年ぐらい差があると思っています。今はどこか怖いというイメージがありますが、うまく使っていけば、5年後にはセンサリング技術で情報を得るというのは当たり前のことになると思います。
城倉:あと、一義的に「ハイパフォーマーがこういう動きをしているから、みんなこうするべき」という指導にはしないほうがいいと思います。一人一人は他の人々との関係性のなかで動いていますから、全員が同じ動きをすればよいというわけではありません。
——集まったデータや従業員の変化を、マネージャークラスの人間はどうフォローアップすればいいのでしょうか?
城倉:「センサーデバイス」で言えば、それぞれの結果を共有してコミュニケーションのツールとして使うべきだと思います。
渡邊:今まではどうしても「背中を見て学べ」みたいなマネージメントが強く、一辺倒なマネジメントスキルしかなかった。問題が可視化されれば、それに対する解決策も可視化されるので、マネージャーにとっては解決策のバリエーションが提示されると思います。
城倉:本人が気づいていない傾向がわかることで、予測ができるようになり、対策を打つことができる。「マネージャーの武器になる」というか、マネジメントの支援にもなりますよね。
——最後に、データを取得するうえでの留意点はありますか?
渡邊:「被験者」という感じになってしまうとよくないですよね。「Geppo」をうまく取り入れている会社は、みんなが参加できる会議で、現場の人間に「そういうツールを取り入れよう」と意思決定させています。
城倉:そうすることで当事者意識を持てますね。
渡邊:「Geppo」や「センサーデバイス」はキッカケツールとして使ってほしいですね。僕の知り合いでも「うだつの上がらない社員」みたいな人がいたんですが、ある会社に異動した途端、ガンガン出世してマネージャーになったんです。「水を得た魚」ってこういうことを言うんだなと。
城倉:主観や行動を可視化することで改善につながり、それによって中長期的な組織のパフォーマンスを上げられるかもしれませんね。また、組織としてだけでなく、改善すべき行動がわかるようになることで、個人が実現したいキャリアの近道も示せるようになり、個人でも取得したデータを十分に活かせると思います。
渡邊:今まで「秘伝のタレ」みたいになっていた働き方が……。
城倉:レシピをちゃんと公開するという。みんながハイパフォーマーになれる可能性が高まるのではないでしょうか。
「センサーデバイス」や「Geppo」は、今も進化を続けている。今後、データを用いたマネジメントがより普及すれば、従業員それぞれの強みを活かした働き方が実現するはずだ。
<取材・文/林泰人(本誌) 撮影/山田耕司(本誌)>
提供:株式会社リクルートホールディングス