「微表情を読む技術は使えない」説の誤解を説く

「微表情は実際のところ、使える場面がない」という説は本当なのか

 こんにちは、微表情研究家の清水建二です。  今回のテーマは、微表情は使えるのか、使えないのか? です。これまで本連載でも微表情の使いどころ、すなわち、いつ・どんなときに微表情は有効で、有効ではなくなるのかについて紹介してきました。  そこで、「微表情が使えない」理由としてよく取り上げられる研究を題材に微表情の日常・ビジネス活用可能性について論じたいと思います。  先に結論です。微表情を誤用すれば微表情は役に立ちませんが、微表情の仕組みを正しく知り適切に扱えば微表情は人の抑制された感情をキャッチする非常に有効なツールとなります。なぜ、どのようにこう言えるのか、論じたいと思います。

人は感情を抑制しても微表情としては2%しか現れない!?

 微表情否定派がよくとりあげる研究にPorterら(2008)があります。この研究の実験方法と結果をまとめると次の通りになります。  「実験参加者に様々な感情を喚起させるような写真を見せ、そこから湧き起こってくる感情を抑制してもらった。その結果、全697の表情パターンが観られ、そのうち完全な微表情は1つもなく、部分的な微表情ですら、全体の2%しかないことがわった」  微表情が生じるか否かの実験をしたところ、実験参加者に現れた表情のたった2%しか微表情が観察されなかった。さらにそれらの微表情は顔全体に現れるものではなく顔の上や下に部分的にしか観察されなかった、ということです。このことから、  「微表情は、抑制された感情を検知するのに適した手がかりではない。その理由は感情が抑制されても微表情が生じることは極めてまれだからである」  というように微表情に対する否定的な意見が主張されます。  しかし、この研究には明らかな問題があります。それは、感情を喚起させる目的として用意された写真が、実験参加者にとって微表情を表出させるほどには十分に強くなかった可能性が高い、ということです。微表情が生じる現実的な場面が考慮された実験状況ではない、とも言ってもよいでしょう。
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微表情は、失うものが大きいときや感情が強く刺激されたときにしか生じない
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