―― 翁長氏は亡くなる直前、今後の沖縄を担う政治家として自由党選出の国会議員である玉城デニー氏に期待していました。玉城氏についてはどのような評価をしていますか。
白井:私は玉城氏と面識がないので詳しいことはわかりませんが、玉城氏と長年付き合いのある元沖縄タイムス記者の渡辺豪氏が書いた記事によると、玉城氏は大変苦労された方だといいます。
玉城氏のお父さんは沖縄駐留の米軍人でした。しかし、顔を見たことがないそうです。玉城さんは母子家庭で育ちますが、お母さんが住み込みで働いていたので、近所の知人のもとに預けられます。そのため、玉城さんは自分には実の母と育ての母、二人の母親がいると言っています。初めて実の母と一緒に暮らすようになったのは小学生に入ってからで、コザ市の長屋のようなところで生活していたそうです。
玉城氏の生い立ちは
戦後沖縄の一面を非常に雄弁に物語るものです。政治家一家に生まれ育った翁長氏の生い立ちも戦後沖縄を象徴するものでしたが、玉城氏はそれとはまた別の側面を象徴していると言えます。
―― 玉城氏は今後どのような取り組みを進めていくべきだと思いますか。
白井:玉城氏には翁長氏が作り、残したオール沖縄の枠組みを再活性化してもらいたいと思っています。正直なところ、翁長県政末期にはオール沖縄について悲観的な話ばかり聞こえてきました。
もともとオール沖縄は「
イデオロギーよりもアイデンティティ」という観点から、保守と革新が腹8分、腹6分をもって団結するという枠組みでした。しかし、裁判闘争では政府が勝利し、名護市長選で敗北するという具合に、状況はますます厳しくなりました。そうなれば士気も下がり、腹6分でまとまっていたものもまとまりにくくなります。それでもオール沖縄が瓦解しなかったのは、翁長氏という余人をもって代えがたいキャラクターがいたからでしょう。
翁長氏が亡くなったいま、オール沖縄とは何なのか、保革をどうやってまとめるかということが改めて問われています。玉城氏には革新系と保守系の長所を伸ばし、短所を補い合うことで、強固な体制を作り上げてもらいたいと思います。
(8月27日インタビュー、聞き手・構成 中村友哉)
白井聡●京都精華大学人文学部専任講師、政治学者。1977年、東京都生まれ。おもな著作に『永続敗戦論―戦後日本の核心』(太田出版・石橋湛山賞、角川財団学芸賞受賞)など
<文/月刊日本編集部>
げっかんにっぽん●「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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