クルーグマンが「独裁国家」と糾弾したポーランドの状況が驚くほど安倍自民党政権と酷似していた

与党に復権後、“お友達人事”で権力固め

 文字通り、「なりふり構わぬ」姿勢を見せてきた法と正義だが、その背景を『フィナンシャル・タイムズ』が分析している。’11年には「法と正義」の中心人物であるヤロスワフ・カチンスキ氏が、同じく与党が強権的で司法やメディアに介入してきたハンガリーの与党「フィデス=ハンガリー市民同盟」は、「どうしたら我々が勝利できるか例を示してくれた」と発言。「我々が成功し、ワルシャワがブダペストになる日が訪れる」とまで言っている。  「法と正義」のカチンスキ氏がここまで共感を寄せる裏には、ハンガリー与党「フィデス」のオルバーン・ヴィクトルと同じく、首相経験がありながら野党に転落した経験があるからだと『フィナンシャル・タイムズ』の記事は指摘する。 “ブダペストのシンクタンク「ポリティカル・キャピタル」のピーター・クレコ氏は、「(カチンスキ氏とオルバーン氏)どちらも、以前の敗退は権力を固めるために、各機関を整備しなかったことが原因だと見ています」と語る。(与党に返り咲いた)’10年以降の「フィデス」と同じく、「法と正義」はポーランドの公共機関への影響力を強めた。ただし、さらに素早く。わずか4週間の間にワルシャワの株式取引所、複数の国有企業、多くの公職のトップに政権に好意的な人物を据えた。また、政権についてからわずか1日で新しい政府はカチンスキ氏の近しい友人を諜報機関のトップに任命している”  カチンスキ氏擁する「法と正義」については、前述のとおり大規模なデモが発生するなど、ポーランド国内でも意見は二分している。 「要職を政権に忠実な人ばかりが固めていたら、共産圏だったころと変わらないですよ。ただ、やはり移民問題などでは保守的な考えをしている人も多い。過激な考えを持っていなくても、意外と周りに投票している人がいるのは、そういう理由もあると思います。だから、以前よりも政治的な議論がしづらくなった気がします」(40歳・女性) 「同年代や歳下で今の政権を積極的に支持している人はほとんどいません。かなり敬虔なカトリックで、小さい頃から保守的な教育を受けて人は別ですが……。ネット上でも『法と正義』を揶揄するような『MEME』(ミーム)が溢れてますしね。ただ、代わりにどこに投票するか決められなかったり、そもそも面倒で選挙に行かない人が多いのも事実です。そうするとやはり、保守的な高齢者の票が威力を発揮しますよね」(29歳・男性)  政治的議論の停滞や、強力な対立候補の不在も、政権に権力が集中している一因のようだ。  しかし、前述のとおり、妊娠中絶の禁止法案は大規模なデモが発生し、否決されるなど、市民の監視の目はまだ機能している。  また、以前も当サイトで紹介したように、ポーランド国内ではライブコンサートの中止など、一般人でも体感できるような影響が表れている。今月にもコンサート直前での会場変更など、同様の事例が発生しており、その際にも主催者からは「誰のせいかはみんな知ってるとおり」と「法と正義」支持団体の関与を臭わせる発表がされたばかりだ。こういった肌で感じられる“実害”があることも当事者意識を高めているのかもしれない。  一度は権力を手放し、野党に転落。そして、与党に復活してからは、“お友達人事”で司法やメディア、財界を支配……。カチンスキ氏やオルバーン氏の政治動向は、クルーグマンが指摘したトランプ大統領よりも、むしろ安倍晋三首相を彷彿とさせる。  最初に紹介したとおり、クルーグマンはポーランドとハンガリーを「独裁国家」であると糾弾し、アメリカに警鐘を鳴らした。しかし、その警告を真摯に受け止めるべきは、我々日本人なのかもしれない。  カチンスキ氏率いる「法と正義」は、選挙に勝利したのち急速に権力を集中させたが、果たして今月行われる総裁選後、安倍晋三首相はどのような動きを見せるのか? クルーグマンの言葉を思い返しながら、ぜひ注視してほしい。 <取材・文・訳/林泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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