日田彦山線
また、復旧を巡って沿線自治体と事業者側の駆け引きが続いている路線もある。例えば昨年の九州北部豪雨で被災した日田彦山線だ。橋梁の変形や土砂流入、路盤崩壊など甚大な被害を受けて、添田~夜明間で運転できない状況が続いている。約70億円ともされる復旧コストや利用促進策を巡って折り合いがついていないのだ。そんな中で、先日、JR九州の青柳俊彦社長が記者会見で「議論が進まないならバス転換も」という趣旨の発言を行い、沿線自治体が反発するというできごともあった。ある自治体の関係者はこう憤る。
「まったくの寝耳に水。今年3月になって青柳社長の『鉄道での復旧が前提』という方針を受けてJRさんと沿線自治体で復旧会議を発足させ、協議を始めたところ。復旧コストや利用促進なども議論していこうという矢先ですから、信頼関係を損なう発言ですよ」
鼠入氏は「路線維持や復旧を巡って事業者と沿線自治体が対立してしまうケースはままある」としたうえで、次のように話す。
「ローカル線の復旧や維持には、事業者と沿線の信頼関係が重要です。沿線人口が少ない路線が黒字になることはありえない。収支以外の面で地域や事業者に貢献する価値を見いださなければなりません。そのためには信頼関係の構築は必須ですし、それができれば被災時の復旧もスムーズに進むのでは」
日田彦山線
今後も地方の人口減少は避けられず、災害もなくなることはない。放っておけば、災害に“トドメ”を刺されて廃止の危機に陥る鉄道路線は増えていくだろう。ローカル線の在り方を考えることも、来るべき災害への備えのひとつなのかもしれない。
<平成30年北海道胆振東部地震>
【JR北海道ほか各私鉄全線】
全道停電によって北海道では一時全線で運転見合わせ。日高本線以外は9月中に復旧の見通し
<西日本豪雨>
【芸備線(JR西日本)】三次~狩留家
橋梁などが流失、復旧は早くても来年1月以降と発表されており、現在はバス代行中
【福塩線(JR西日本)】府中~塩町
もともと一日6往復のみの超閑散路線。一部区間は10月中、全線復旧は来年1~3月の見込み
【呉線(JR西日本)】三原~安芸川尻
瀬戸内海沿いを走る呉線のなかでも利用者の少ない区間。安浦~安芸川尻は11月中、三原~安浦は来年1月復旧予定
【高山本線(JR東海)】坂上~猪谷
富山と岐阜を結ぶ路線。坂上~猪谷で不通が続く。11月下旬に復旧予定とJR東海が発表
【山陽本線(JR西日本)】三原~白市
貨物列車も走り、物流を支える重要路線。急ピッチで作業が続き、9月30日に復旧の予定
<その他、過去10年間>
【日田彦山線(JR九州)】添田~夜明
昨年の九州北部豪雨で不通に。沿線自治体とJR九州の間で復旧方法を巡り協議が続く
【豊肥本線(JR九州)】肥後大津~阿蘇
一昨年の熊本地震で線路や線路下の路盤が多数崩れたため不通。2017年4月、現地に復旧事務所を設置し、復旧工事が進められている
【日高本線(JR北海道)】鵡川~様似
’15年の高波で路盤が流失。JR北海道はバス転換の意向も自治体側が反発し協議が難航
【岩泉線(JR東日本)】全線
土砂崩れで長期不通、そのまま廃止に。JR東日本発足後、純粋な廃線は岩泉線が唯一の例
取材・文・撮影/鉄道と災害調査班 撮影/鼠入昌史