台湾「慰安婦像キック問題」の背後に「右派カルト」。大手メディアは沈黙

藤井氏と幸福の科学の関係

 藤井氏は「慰安婦の真実」国民運動の幹事を名乗っているが、別団体である「論破プロジェクト」の代表という肩書きも持っている。論破プロジェクトは、幸福の科学の政治部門である幸福実現党の支援を受けて2013年に結成された。幸福の科学関係者のほか、「慰安婦の真実」国民運動の加瀬代表、高橋史朗など日本会議関係者も賛同人として名を連ねる。「慰安婦の真実」国民運動も後援団体に加わっていた(賛同人、後援団体にかんする記述は2014年に論破プロジェクトのウェブサイトから削除されている)。  藤井氏はこの論破プロジェクトでも、海外で問題を起こしている。2014年1月にフランスで開催された「アングレーム国際漫画祭」に、「従軍慰安婦の強制連行はなかった」と主張するマンガを出展しようとして、同漫画祭で禁じられている政治宣伝にあたるとして主催者から中止を要請されたのだ。一方で、この漫画祭には韓国側から慰安婦に関するマンガが出展されたことから、産経新聞が〈「慰安婦漫画」韓国OK、日本ダメ〉との見出しで報道し、不公平感を煽った。これに反応した片山さつき参議院議員がTwitter上で「明日欧亜局呼びます早期事態収拾を!」などと息巻いてみせた。  しかしこの論破プロジェクト、当時幸福実現党の幹部だったミュージシャンのトクマ氏のマスコットキャラクターを使用。アングレーム国際漫画祭で出店予定だったブースにも、このキャラクターが掲出されていた。慰安婦をテーマとしたマンガが政治宣伝に当たるかどうかとは別に、幸福実現党の宣伝という意味での政治宣伝でもあったのだ。  トクマ氏は2012年、尖閣諸島に無断上陸し書類送検された(起訴猶予)人物。ミュージシャンとしては、「憲法9条改正!」を連呼する「I LOVE ZIPANG」という曲や、従軍慰安婦について「ゆすってたかってヒステリック」「民間業者 プロの元慰安婦」などと歌い上げる「河野談話はでっち上げ!」といった曲を発表している。言うなれば党公認の”ネトウヨミュージシャン”だ。  論破プロジェクトがアングレームで一悶着起こした当時、そのトクマ氏が、週刊新潮の取材に対して藤井氏が幸福の信者であることを証言した。(参照:「やや日刊カルト新聞」)論破プロジェクトの実態は、実質的に幸福の科学のフロント活動とも言える代物だったのだ。それが加瀬氏や高橋氏という日本会議系の人脈とクロスしている。

「慰安婦像キック」が内包する2つの問題

 こうした立場と経歴を持つ藤井氏が今回、慰安婦像を蹴り、国際問題に発展している。  この騒ぎの背景には、2種類の問題がある。1つは、「慰安婦問題」に対抗する勢力がここでも生長の家・原理主義的一派(日本会議)と幸福の科学につらなる人物・団体であるという問題だ。台湾での藤井氏の行いについて、『日本会議の研究』の著者・菅野完氏はTwitterでこうコメントしている。 〈「慰安婦問題なんてない。慰安婦問題問題がある」というのが僕の従来からの立場。で、慰安婦問題問題があるのは、日本の社会がミソジニードリブンだから。元来ミソジニードリブンなこの社会に慰安婦問題の火をつけたのが、新宗教の連中 だから、幸福の科学はこの際糾弾されるべきというのが僕の立場〉 〈ネトウヨをはじめ、産経新聞やWILLなどの保守論壇の「慰安婦問題のネタ元」ってのは、生長の家原理主義者もしくは幸福の科学の連中のたわごとしかないわけ。今回、慰安婦像を蹴った幸福の科学の信者はその代表例〉  また、菅野氏は「時対協や全愛会議(注:両組織ともに右翼・民族派団体の連合体)に参加の右翼団体で声高に『慰安婦問題は朝日の捏造』のような痴れ事を団体として主張するところは管見の及ぶ範囲、存在しない。この事実を見ても昨今の慰安婦問題なるものは、戦後の一般的な右翼・民族派の系譜とは遊離した言説なのがよくわかる。90年代以降力をつけた生長の家原理主義者などオカルトな連中によるプロバガンダに、日本の世論全体がひっぱられているにすぎないし、だからこそこの問題は罪深いのだ」とも語る。  元来、戦時中に女性が強制的に売春に従事させられていた事実は、「従軍経験者を中心に広く認知されていた」(菅野氏)。その事実を敢えて疑問視して見せることで、日本社会に古来から宿痾のように存在するミソジニーを煽り、自派の拡大と自説の流布に利用してきたのが生長の家原理主義者集団や幸福の科学であり、それを具体的な行動によって端的に見せつけたのが、今回の藤井氏というわけだ。  もう一つの問題は「カルト」の問題だ。筆者は慰安婦問題には全く詳しくない。それでも今回の藤井氏の件を特に問題視している。それは、人権に関わる問題を提起する側に対して、具体的な侮蔑行為が行われ、それが幸福の科学という宗教の影響下にある人間のものだからだ。  カルト問題に取り組む人々の間では、カルトかどうかを見極める最大の基準は「違法行為や人権侵害を行う集団」であるかどうかだ。ミソジニーを煽っているかどうかは、思想や言論の問題であり、直接には「カルトの条件」にはならない。時おり「右派カルト」という言葉を目にするが、右派であることを理由に「カルト」と呼ぶことはしない。  しかし藤井氏の「慰安婦像を蹴る」は、思想でも言論でもない、具体的な行為だ。自分たちの主張(教義)のためなら他人の人権なぞ知ったことかと言わんばかりのカルト宗教的な発想が、行為として具体化した。信者が人権を否定する思想を実際の行動に移せるのだからやはりカルトなのだ。  一部の宗教団体が「慰安婦問題」を煽っているのだという菅野氏の指摘に加え、よりによってその宗教団体が「カルト」なのだという点も、我々はしっかり認識しておく必要がある。右派であることは「カルト」の条件ではないが、「カルト」が極端に目立つ右派活動をリードしていることは間違いない。
次のページ 
鈍感な日本のメディア
1
2
3