さらにこうした長期不通が鉄道離れを促進するパターン、背景には“鉄道利用を前提としていない街づくり”も影響しているという。
「鉄道を維持するためには、鉄道駅を中心とした街づくりを進める必要がある。市役所などの公共機関や学校、病院、商業施設などを駅の周辺に集めることができれば、クルマを使わず鉄道利用でも不便を感じることなく暮らせます。ですが、地方都市ではクルマ利用を前提としているため、こうした施設が駅から離れた場所にある。北海道のある自治体では、駅周辺にあった病院や学校をわざわざ駅の遠くに移転させたケースもあるほどです。つまり、ただでさえ鉄道は利用しにくい環境。そこに、災害による長期間の運休が追い打ちをかけて、鉄道離れが一層進んでしまうわけです」(鼠入氏)
特に北海道では、もとよりJR北海道は極めて厳しい経営状況に置かれている。そこに今回の大地震。道内のある地方都市に暮らす人に話を聞くと、「鉄道の復旧は一番最後でもいい」という答えが返ってきた。
「日常生活の中で鉄道がなくて困る人はあまりいませんからね。道路が復旧して高速バスが走るようになったら地方でもなんとかなる。電気や燃料が不足するというならば、鉄道は一部の利用者が多い区間以外は止めておけばいいんですよ」
なんとも衝撃的な話だが、これが地方の実情。そしてこうした状況がJR北海道の経営に大きな打撃を与えかねない、というわけだ。
「鉄道の復旧には莫大なコストがかかる。でも、それをしたところで従来の利用者数に戻るならまだしも、大きく減少してしまうとなれば問題です。“災害復興”を大義名分に公的支援を受けて何も考えずに復旧するようなことは『負の遺産』を生み出すだけになる可能性がある。寸断された鉄路をもとに戻すためには、その後のあり方を考えることが大前提になるべきです」(鼠入氏)
JR北海道は2年間400億円の公的支援を受けることが事実上決定した。これによって経営再建を図ることになるのだが、今回の地震からの復旧でそれがうやむやになり、「被災した路線をもとに戻すので精一杯だったから何もできませんでした」では、貴重な血税をドブに捨てるようなもの。災害からの復旧だからこそ、“その後の鉄道利用のあり方”を真剣に考えるきっかけにしなければならないだろう。
<取材・文/HBO編集部>