「誰がためのイージス・アショアか?」配備地から導き出される、ある推論

弾道弾攻撃軌跡から導き出す「秋田」と「萩」の意味

 まず場所です。
北朝鮮による弾道弾攻撃の軌跡

5-2:北朝鮮による弾道弾攻撃の軌跡とブーストフェーズ迎撃の可能性
液体燃料ICBMの場合(固体燃料ICBMでは迎撃射点がほぼ陸上となる) 
pp2-14, Making Sense of Ballistic Missile Defense: An Assessment of Concepts and Systems for U.S. Boost-Phase Missile Defense in Comparison to Other Alternatives, 2012, National Academy of Sciencesより引用

 秋田上空をハワイ向けICBMが、山口上空をグァム向けIRBMが通過しています。青森には、既に車力に前方展開Xバンドレーダー(FBX-T)が配置されています。これはハワイ向けICBM早期警戒、追跡用でしょう。グァム向けは、韓国領内と京都府の経ヶ岬にFBX-Tが展開し、早期警戒、追跡をしています。  では、ハワイ向けICBMグァム向けIRBMの早期警戒、追跡用レーダーはこれらFBX-Tで十分ではないでしょうか。  まず、近い脅威としてグァムを狙うIRBM火星10(ムスダン)の絶好のミッドコース迎撃位置にが存在します。この萩は、日本の領域防衛には余り役に立ちませんが、SM-3 Blk IIを用いるイージス・アショアにとり、グァム防衛の為の絶好の迎撃位置となります。火星10によるグァム攻撃は、現時点では通常弾頭でしょうが、将来、北朝鮮の核開発が進展すれば核弾頭になると考えるべきです。そうでなければ北朝鮮にとって対米抑止力となり得ません。  次に秋田です。秋田は、日本国土防空にとってはきわめて不適切な場所です。遠過ぎて、角度も大き過ぎるのです。本来、立地不適格として除外されます。ところが、少し遠い将来、火星14が配備されハワイ攻撃用ICBMとして運用された場合、秋田はSM-3 Blk IIA/Bによる絶好の迎撃射点となります。なにしろ軌道の直下で、加速終了の直後、高度は秋田市直上で700~800km程度です。これは、SM-3 Blk IIによる理想的なポスト・ブーストフェーズ(上昇段階)迎撃位置です。  ここで、第三回で登場した弾道ミサイル防衛の概念図を再掲します。最初読み取りにくかった方も、今ではけっこう読み取れるようになっていませんか。もっとも、この図は読み取りにくい代表的な図なので、ゆっくり慣れてください。とても大切な図です。
弾道ミサイル防衛の概念図

5-3 弾道ミサイル防衛の概念図
縦軸がおおよその高度(km) 横軸が射程(km)
図でAscent(上昇)と書かれている部分がポスト・ブーストフェーズ
pp1-7, Making Sense of Ballistic Missile Defense: An Assessment of Concepts and Systems for U.S. Boost-Phase Missile Defense in Comparison to Other Alternatives, 2012, National Academy of Sciencesより引用

 合衆国は、イランICBMのブーストフェーズ、ポスト・ブーストフェーズ迎撃に絶好な射点を探しましたが、トルコでも良好な迎撃射点が見つからず諦めています。北朝鮮ICBMの場合、ハワイ攻撃に限れば、秋田が絶好の射点になります。これは弾道ミサイル迎撃にとって「夢が形に」なる希有な例です。  私は、秋田にイージス・アショア配備という報に接したとき「あ、ハワイか」と考えました。火星14によるハワイ攻撃は核攻撃以外にあり得ません。ですから、SDIからの悲願であるポスト・ブーストフェーズ迎撃の射点を合衆国が見逃す筈がありません。政府、自民党有力者からも、同盟国のアメリカへ飛ぶミサイルを日本が撃ち落とさないなどあり得ないという発言がでています。  では、もしも東京防衛の射点として可と言える能登半島ならどうでしょうか。能登半島ですとグァム、ハワイ双方への軌跡からずいぶん離れています。会敵予測をシミュレーションすれば会敵可能でしょうが、実戦証明のない兵器で最終兵器たる核を撃ち落とすのならば最適の場所を選びます。これは、佐渡分屯地も同じことです。したがって、双方とも候補地としては不適となります。  もう一つ、早期警戒、追跡レーダーとしてもイージス・アショアの萩、秋田配備はたいへんに有効です。車力や経ヶ岬のFBX-Tは、早期警戒、追跡レーダーとして前方のみ(想定される射点の方向のみ)をレーダー覆域とします。一方で、イージス・アショアは元が洋上艦のイージスシステムですから、全周360°の監視を行えます。したがって、迎撃失敗後、図上を通過したあとも自身が破壊されない限り追跡を続け、貴重な追跡情報を合衆国に送り続け、ハワイに展開するイージス艦からのSM-3 Blk IIA/Bや場合によっては洋上配備弾道弾防衛(SBD)による迎撃の成功率を上げます。  これは萩も同様で、上空通過後もグァム向けIRBMを追跡し続けます。グァムでは、SM-3 Blk IIA/BやTHAADが待ちかまえます。  核が相手なら、絶対に撃ち落とさねばならず、確実性を上げる為には何でもすることになります。
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イージス・アショア配備の真の意味とは?
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