内部は独特な作りで、玄関を開けるなり収納機能も備えた急斜面な階段がそびえ立つという狭さなのだが、吹き抜けがあり窮屈さは感じさせない。
引き戸が棚になっていたり、中二階に開放的な和室が設けられたりと、縦のスペースが有効活用された3階建て。まるで、某リフォーム番組の匠のような仕事っぷりが随所に光る。
しかし……なんということだ。
洗濯機置場がどこを探しても見当たらないのだ。当初は匠がどこかのスペースに収納してしまったのかと考えたのだが、あまりにも見つからないため債務者に訪ねてみると……。
「洗濯機置場、作るの忘れてしまって……」
最終的に洗濯機置場は3階部分を切り取ったような、狭い屋上に無理やり設置されるということに。
この急激な階段の連続、手すりもなく落ち着かない中二階和室、洗濯スペースが屋根のない屋上ということが災いしてしまった。
債務者は掘っ立て小屋に住む老いた両親へのサプライズプレゼントとしてこの物件を用意したのだが、当初は喜んでくれた両親も、あまりの暮らし難さに数か月で元の掘っ立て小屋に帰ってしましい、機嫌を損ねた債務者がローンの支払を放棄。その後両者は顔を合わせることもなくなってしまったという――。
築年数の浅いこの家が競売物件となってしまった“不可解さ”の正体はこのようなものだった。
注文住宅には思い入れが強い。家主の思いのみで構成されているケース、他の人が住む可能性など微塵も考えられていないケースがほとんどだ。
素晴らしいハウスメーカーであれば、これらを軌道修正し機能的で居住性の高い間取りに導いてくれるのだが、それでは注文住宅の意味がないと考える家主も少なくない。
もし今後、注文住宅での設計を検討しているという方がいるようであれば、ひと呼吸おいて「他の人に売却するとしたら」「高齢者が住むとしたら」「小さな子どもに危険はないか」という視点で見つめ直してみるのはどうだろうか。
目先の見栄えや夢だけで構築された物件はやがて大きな負担となり、貴方にのしかかって来るかもしれない。
【ニポポ(from トンガリキッズ)】
ライターの傍ら、債務者の不動産を競売にかける『不動産執行』のサポートも行う。2005年トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。
Twitter:
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オフィシャルブログ:
団塊ジュニアランド!
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超ニポポの怪しい動画ワールド!
全国の競売情報を収集するグループ。その事例から見えてくるものをお伝えして行きます。