第一のニーズが満たされて、初めて顧客は深層ニーズを語り始める
なぜなら顧客からのクレームは、貴重なデータになるからです。クレーマーは、ニーズの宝庫。そもそも相手に何の興味もなければ不満も持ちませんし、不満を伝えようともしないでしょう。愛人関係であれば黙って別れるだけです。
それがここまで熱心なクレームを入れてくるということは、私という愛人に過剰な期待を抱いていることの現れ。何らかの欲求を叶えてほしいと、懸命に訴えているのです。
こういう時はまず、じっくり顧客の声を傾聴します。私はなるべく電話で対応するようにしております。LINEやメールで何往復するよりも、直接的でニーズが把握しやすいからです。ストレスにならないようスピーカーフォンにし、適度に相槌を打てば、顧客に「僕の不満を聴いてもらっている」という満足感を与えることができます。
クレーマーは第一に、「僕の不満を聴いてほしい」というニーズをもっていますので、まずは黙って「聴くだけ」で心を満たすことができるのです。「なかなか会えない」ですとか「お金だけの関係なの?」という愛人関係の不満は、傾聴するだけで半分以上が解決できると言っても過言ではありません。
企業のコールセンターには、連日のように寂しいクレーマーからの電話が入ります。その声をないがしろにせず、ただじっくり聴いてあげるだけで顧客満足度は飛躍的に向上するそうなんですね。愛人関係もビジネスですから、これと同じです。コールセンターの担当が、クレーマーに反論するのはご法度です。
私は黙って、彼の不満を聴き続けました。「はい、そういう風に感じているんですね」「あなたはこの何ヶ月、2人の関係がお金だけのつながりだと思ってしまい、辛かったのですね」と、相手の言葉を繰り返します。
そうするうちに、顧客は自分の考えを整理していきます。彼は30分も不満を吐き出した後、「一方的に不満を募らせた自分が悪かった」と、少し冷静になってきました。愛人相手に不満をぶつける自分を、恥ずかしいとも思っているようです。
ここからが、顧客の本音(満足度向上につながるニーズ)を引き出す本番です。冷静になるにつれ、彼は「お金だけの関係じゃないという実感がほしい」という本音を語り出したのです。
第一のニーズ(不満を聴いてほしい)が満たされて、初めて顧客は深層ニーズを語り始めます。「お金だけの関係ではない、彼氏として付き合っている実感がほしい」。この思いを愛人ビジネスではどうやって満たすべきか。次回はそのあたりを解説したいと思います。
<文・東條才子>