安倍首相の肝いりで始められる、国家戦略特区を使った外国人農業労働者受け入れ
2018年6月5日、経済財政諮問会議での安倍首相
日本の農業をめぐる最新のトピックスは、外国人農業労働者の受け入れ問題だろう。これまでも技能実習生という形でアジアの若者たちを受け入れてきているが、今進んでいるのは、より大規模に単純労働者として移入しようというものだ。
安倍首相は今年6月5日の経済財政諮問会議で人手不足が深刻な建設や農業、介護など5業種を対象に2019年4月から、「これまで認めていなかった単純労働に門戸を開く」という方針を示した。農業分野は、当面は地域を国家戦略区特区に限定するが、近いうちに全国に波及させることになっている。
農業者受け入れの国家戦略特区には現在、新潟・愛知・京都・大阪などの関西圏が名乗りをあげているが、関心を示す自治体は多く、米子市を中心とする鳥取西部も提案書を公表している。
農業に対する外国人労働者の受け入れは農協も積極的だ。それだけ農業の人手不足が深刻だということもあるが、同時に安倍政権が進める「攻めの農業」「強い農業」路線への迎合という側面もある。まず現在の実態を見ていこう。
現在の「外国人技能実習生」による農業労働でさえ、不法就労や失踪が多発
農家の高齢化は深刻で、大型機械を操るのも高齢者ばかり
農業への外国人労働者の就業は、現在は「外国人技能実習生」に限られている。技能実習生というのは、「日本の優れた技能を習得させて出身国の発展に貢献する」という大義名分をもっている。
しかし実際には、“政府が管理する、安上がり労働力の派遣”という状況が生まれていることは公然の事実だ。農水省の資料によると、研修を目的とした新規入国者は2017年で約8万3000人、うち農業分野は6600人でこの5年間で倍増している。
しかしこれはあくまで公式の数字で、事態は相当の外国人が農業分野で働いている。水産業や林業を加えるともっと多くなる。仕事の対象も、もともとは畑や施設園芸、畜産などに限られていたが、近年食品加工や製造も加えられたため、けっこう広がっている。
いわゆる不法就労者を含め、いったいどれくらいの外国人労働者が農林水産業で働いているかはつかみきれていない。ちなみに政府の数字では、2017年に強制退去になった外国人のうち不法就労者は4万600人、うち農林水産業は851人だった。
しかしこれは“氷山の一角”である。また法務省の資料によると、雇用先から失踪した技能実習生は2017年で1207人。建設業の2582人に次いで多かった。
農業分野が外国人労働者を求める背後には、農業従事者の高齢化と、それに伴う労働力不足がある。実際、大都市市場向けの野菜の大きな産地は、外国人労働者なしには産地が維持できなくなっているのが事実だ。
長野や群馬の高原野菜、茨城県南部のメロンや野菜、栃木のイチゴ、夕張のメロンなど、どこも同じだ。外国人労働者がいくなると、東京の消費者は野菜を食べられなくなるといっても過言ではない。