「置き配」は、海外では一般的な配送方法として浸透しているが、それは「置き配」というより「置き去り配」に近い。
世界最先端の街と言われるニューヨークでも、ドアマンのいないタウンハウスなどに住んでいる場合、盗難補償よりも再配達のコストのほうが高くつくという理由から、ネットで購入した一般小包などは玄関先に放置され、その都度雨や盗難のリスクに晒される。
そのため、国際小包や書留など、置き去り配が禁止されている配達物の再配達を依頼しても、時間帯指定ができないどころか、1日中家で待ち続けても、荷物を載せたトラックは当たり前のようにやって来ない。
そんな海外より治安がいいとされる日本で、今まで置き配が浸透してこなかったのは、やはり「置き去りにする罪悪感」と、「安全性」における懸念がぬぐえなかったからだろう。そうした不安に対応すべく、OKIPPAには、玄関のドアとバッグを固定する専用ロックと、バッグの内鍵となる南京錠が付属。専用ロックのセキュリティワイヤーは、一般的なはさみでは切断が困難な亜鉛素材を採用した。
OKIPPAの「安全性」に対する配慮はそれだけではない。同社は今年7月、ECユーザー向けに東京海上日動と「置き配保険」を開発。OKIPPAへ24時間以内に配送された3万円までの商品に対して、盗難補償を盛り込んだ「アプリプレミアムプラン」を年額980円(予定価格)で提供する予定だ。
安全面においては一部、「バッグに配達物が入っていることで不在だと気付かれ、空き巣犯罪を助長するのでは」という不安の声が挙がるが、先述通りOKIPPAは「不在時に使用するもの」ではなく、あくまでも「対面せずに受け取れるアイテム」であるため、「バッグに配達物が入っている=不在」とは限らない。
配達の時間帯指定をしても、配達員が来るまでは、外出はもちろん、「入浴できない」、「チャイムの音が聞こえる環境にいなければならない」など、思いのほか行動を制限されることが多いが、こうして安全に置き配ができれば、これらの行動制限からも解放され、寝起きやノーメイク、防犯などで配達員と対面したくない場合にも正々堂々と「居留守」ができる。
さらに、チャイムが鳴ってもすぐに対応できないひとり暮らしの高齢者や、体に障害のある人なども、焦らず自分のタイミングで玄関先の荷物を取りに行けるようになるため、OKIPPAにおいては不在時よりもむしろ在宅時のほうが利便性を感じるかもしれない。
Yper株式会社代表取締役でOKIPPA発案者の内山智晴氏
Yper株式会社の代表取締役でOKIPPA発案者の内山智晴氏は、前職の伊藤忠商事で航空関係の業務を担当。
高層ビル火災の際に使用される「スカイキャノン」という、ヘリコプター用の放水銃を米国の企業と開発していた異色の経歴の持ち主だが、研修先のフランスに滞在した際、日本の物流の高さを痛感。国内の高い安全レベルを用いて海外展開できる物流商品を開発したいと、同社を退職したという。
「物流の最先端をいく日本ですが、それでも国内では多くの問題がある。これがクリアできたら海外で“日本の物流”が売れると思ったんです。物が動く限り、どの国にも物流は存在しますしね」
OKIPPA開発において、内山氏が重視したのは、先述した置き配における安全性の向上と、システムの導入や設備設置のしやすさだ。
「アナログで手頃な価格のバッグと、既存の配達トラッキングシステムを掛け併せたことで、宅配ボックスを設置するための場所や大がかかりな工事、IoT化構築の手間とコストを省きました。広く普及させるには、容易な設置と低コストは必須条件。普及しなければ再配達もなくならないですから。来年末までに20万個の普及を目指しています」
国土交通省によると、EC利用の増加に伴い、2016年に国内で配送された荷物の総数は40.2憶個。この10年で約1.4倍にもなった。ドライバー1人が1日で運ぶ荷物の量は150~200個で、全体の取扱個数のうち2割が再配達だ。これは年間9万人のドライバーの労働力に匹敵し、トラックの排気ガスは年間42万トン分に相当する。
人のぬくもりを大事にする日本の文化。対面して受け渡すことなく、荷物を置いて行ってしまうという置き配に、かつて、意思の伝達手段が手紙から印刷、そして印刷から一斉メールに移行していった再にあがった「冷たい」「心がない」という声を思い出す方も少なくないだろう。が、対面できない分、大事にしなければならないぬくもりは、置き配バッグの中にしっかりと入れて行くのもまた日本人の気質だ。
配達側・受取側双方に対面配達の限界が来ている今、置き配という新しい配達のカタチを受け入れる抜本的な「意識改革」が必要になってきているのかもしれない。
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『
トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは
@AikiHashimoto