既述のように、
イージス・アショアは昨年5月、
THAADより安いと言う表向きの理由で選択肢として上がってきました。MD対応イージス艦をそのまま陸上固定基地とするもので、素人考えでは既存のシステムを利用したお得なものになりそうです。
但し、確実に
先制奇襲攻撃に晒される固定基地で、しかもミサイルの弾数は地上発射機に
16ないし24発しかありません。このなかには自己防衛のためのターミナルフェーズ迎撃兵器は存在せず、それ自身はたいへんに
脆弱です。開発中の
SM-6を自己防衛用に装填するとそれだけ領域防空兵器としての能力が下がります。PAC-3を拠点防空用に配備すれば、ほかの拠点防空がそれだけ
手薄になります。固定基地ならではの
本質的な弱点です。
現時点でイージス・アショア2基の値段は既に5000億円を突破する可能性が高く、私は、1兆円前後になると考えています。少なくともTHAADより安いと言う
当初の理由は崩れています。
また納期は早くて
6年後となっています。一方で半島の緊張は大きく緩和しており、配備された時点での情勢によっては使い道が無くなる可能性すらあります。もちろん、緊張が高まる可能性も否定はできません。そもそも、THAADと異なり日本向けのものは
未完成の兵器ですので、先行きが見通せません。
とくに、本来THAADを配備して上層ターミナルフェーズ迎撃の穴を埋める筈のところにSM-3 Blk IIAというミッドコース迎撃を担当する兵器を配備するという不整合があります。イージス・アショアは
秋田市と萩市と言うイージスMDを配置するには
理想的な場所からはほど遠い場所に配置される予定で、MDの役に立つかも怪しいと思われます。
この
配備場所のおかしさは深刻で、秋田は
ミサイルの射点から遠過ぎる上に殆どの防衛対象都市が極端な側方迎撃にあたり、
標的弾頭との角速度が大きくなると言う
たいへんな不利があります。萩は、ミサイルの射点から近いのですが、大阪、名古屋、東京へは側方迎撃となり、やはり
標的弾頭との角速度が大きくなると言う不利があります。この角速度の問題は不安要素で、もちろん会敵は出来るのでしょうが、命中できるか否かではやはり不利となります。実戦証明のないミサイル防衛兵器ではこういった
博打はやらないものです。実際、MDイージス艦は基本的にはできるだけ理想的な迎撃位置を占位するのではないでしょうか。合衆国のMDも、できるだけ迎撃に理想的な射点を取る努力をしています。
イージス・アショア導入の理由として、
護衛艦隊のイージス艦の負担を緩和すると言う理由が出てきましたが、これも
取ってつけた理屈に過ぎません。なぜなら、現在導入が進んでいる
BMD5.0イージスMDでは十分な
SM-3を搭載すれば、洋上展開するイージス艦は1隻でよいのです。更に、日本は6隻のイージス艦を保有し、更に2隻が加わる為、8隻のイージス艦が手もとにあります。このうち少なくとも6隻が
BMD5.0を導入することになっています。弾庫が足りないと言う論は、現状の1隻辺り8発では成り立ちません。数十発を装填する場合は問題化するでしょうが、その時はまだまだ先ですし、それは別の議論となり、解法は幾らでも出てくることです。
また、弾道ミサイル攻撃の可能性がきわめて高くなれば護衛艦隊は無理をしてでも短期間(2週間程度)の全力出撃をするのではないでしょうか。日本海海戦がそうであったように。もちろん、大戦末期のように艦隊が港で寝ていると言う選択をする可能性も無くもありません。多正面戦争と言う国家の自殺行為で海自が留守と言う可能性もありますが、この場合は既に日本は死んだも同然です。
なにしろ1兆円を超えるであろう買い物です。防衛費は無尽蔵ではなく、高額な兵器の導入では必ず他にしわ寄せが生じます。陸上自衛隊の装備となる見通しですので、陸自の編成が大規模に組み換えになり、在来の装備が大きく削られる可能性は高いです。もちろん、納税者の負担も増えます。
私には、日本の弾道弾防衛能力を強化する為にイージス・アショアをTHAADを排して配備する理由がどうしても思いつきません。そこで、先例をもとにもっと踏み込んでみましょう。
イージス・アショアと言う兵器の日本配備を考えるとき、イージス・アショアが、どのような意図を持って合衆国により開発、配備されてきたかを慎重に見極める必要があります。イージス・アショアは、現在欧州のルーマニアとポーランドに先行して2基配備が進んでいます。
本稿、続きます。次回は、欧州イージス・アショアを取り上げて解説します。
※第2回までに読者の皆様から頂いた質問にコロラド博士が答える
FAQが牧田氏のFBに開設されました。そちらも併せて御覧ください。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第3回
<文/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado photo/
USMDA via flickr(CC BY 2.0)>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガを近日配信開始予定
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まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについての
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