ドンムアン国際空港は格安航空会社専用空港で、利用者の大半が中国人だ
「民泊」サービスである「エアビーアンドビー(Airbnb)」などがタイにもあるが、今、中国本土から来る中国人富裕層と観光客がこの「民泊」で近隣住民を悩ませる事態になっている。
タイでは今年6月ごろに「民泊」に関する判決が裁判所で出されており、1日あるいは週単位での貸し出しは違法となった。これはタイの「2004年ホテル法」にて認可されていない宿泊施設であると判断されたためだ。
アパートやコンドミニアム(日本でいうマンション)を月単位で貸し出す日本人投資家も少なからずバンコクにはいる。しかし、こちらはホテル法には抵触していないので問題はなく、「民泊」も月単位なら可能であると考える余地も出てくる。しかし、民泊オーナーの大半は月単位で貸し出すことはしたがらない。
例えば月1.5万バーツ(約5万円)で貸せる部屋を所有しているとする。「民泊」の場合、あまりに高いと借り手がつかないが、それでも1泊1500バーツ(約5000円)程度なら中級ホテルと変わらないため、それなりに客が入る。この条件下であれば、稼動日数が10日もあれば家賃と同じだけ稼げてしまう。大まかではあるが、そこそこに立地条件がよければ月単位で貸すよりも「民泊」だと収益は3倍が見込まれるということになる。
特に中国人の物件オーナーは、本国で自分名義の不動産を持てないため、資産を分散するためにタイで分譲コンドミニアムに投資していると見られる。タイは外国人が土地を購入することは認められていないが、分譲のコンドミニアムの一室なら外国人名義で買うことができる。オーナー自身はタイに住んでいないこともあり、空き部屋を寝かせるだけでなく、資産運用のためにタイ国内で「民泊」をしているのだろう。
バンコクで日本人向けに賃貸物件を仲介する「ディアライフ」社の代表、安藤功一郎氏にバンコクにおける中国人の「民泊」について聞いた。
「バンコクの築5年以内のコンドミニアムはほぼ100%、中国人オーナーによる『民泊』が見られます。彼らは中国人に部屋を貸しているので、近隣住民から苦情が出るようになってきました」
中国人が行う「民泊」はすべてがコンドミニアムとなる。ほかの部屋は普通に暮らしている人ばかりだ。その部屋だけ入れ替わり立ち替わり見知らぬ中国人が頻繁に出入りすることになる。タイの高級コンドミニアムは共有スペースにプールやルーフトップバーがあることがほとんどで、そこで騒いだり、ゴミを散らかして帰るなど、近隣住民が迷惑しているというのだ。
ただ、安藤氏は、中国人に「民泊」が人気であることが理解できないと言う。
「タイはホテルが安いです。それにも関わらず、中国人観光客の中には『民泊』で宿泊先を確保する人が少なくありません。推測では、香港など中国の都市部はホテルが高いため『民泊』が常識になっているのではないかということですが……」
築浅物件に中国人の「民泊」が多いのは、新しい物件であり高層マンションであることからSNS映えする内装や窓からの景色となり、窓を開けられないホテルよりも喜ばれて客も取りやすいという事情があると考えられる。
いずれにしても、中国人オーナーは中国人だけに貸し出す。そのため、そのコンドミニアムだけが著しく中国化してしまう。そもそもタイでは「民泊」が違法であるとされながらも中国人たちはなぜ「民泊」を続けられるのか。それはその物件が彼らの所有物であるからだ。前出の安藤氏が話す。
「ホテルであれば迷惑客を拒否できますが、分譲の場合、所有者ですから追い出すことは困難です。住民の苦情を受けたコンドミニアム側はオーナーに『民泊』の禁止を告げたり、見えるところに張り紙を出します。しかし、完全に禁止できないのが現状です」
いくら注意をしたところで、オーナーが友人を泊めていると言ってしまえば、客であることをコンドミニアム側が証明できない限り、強く禁止を求めることはできない。そのあたりも中国人オーナーはしたたかに理解していると見られる。
安藤氏によれば、タイ人や日本人の「民泊」運営者にはほとんど遭遇しないという。