水害の原因として疑われている「上流のダム緊急放水」について話す嘉田由起子・前滋賀県知事(中央)。河川法52条に基づく措置を取らなかった理由をを問い質していた
嘉田由紀子・前滋賀県知事、河川工学者の今本博健・京都大名誉教授、大熊孝・新潟大名誉教授らが8月7日、浸水で死者51名の被害を出した倉敷市真備町地区を視察した。
3名の野党国会議員(国民民主党の柚木道義衆院議員、立憲民主党の高井たかし衆院議員と山崎誠衆院議員)も同行。5か所の堤防決壊現場で国交省岡山河川事務所や岡山県の担当者から説明を受けながら、地域住民の話に耳を傾けた後で記者会見を行い、ダム建設優先で堤防補強が二の次となっている河川政策の抜本的見直しの必要性を訴えたのだ。
中洲の木の繁茂を放置したことが、堤防決壊の一因に!?
一行がまず向かったのは、中国山地が源流の高梁川と支流の小田川の合流地点。ここで国や県の担当者が説明を始めようとした時、地元住民が割り込んで来て小田川の中州を指差しながら、「ここは山林のごとく木の大山だったのですよ。それを隠すために、災害の後、(国交省が)すぐ木を切った。そんなことが許されますか」と訴えた。
真備町地区の堤防決壊の原因と疑われているのが、1)脆弱な堤防(ダム建設優先で堤防補強後回し)、2)上流のダム緊急放水、3)河川維持管理不足(木の繁茂でスムーズな水の流れを阻害)などだ。
この3番目の要因について、地元住民が「証拠隠滅しようとしている」と内部告発をしたのだ。視察団からは「伐採していたら、決壊していなかったかもしれない」(柚木氏)という声も出た。小田川の河川管理者である国交省の“人災”の可能性がさらに濃厚となった瞬間だった。
中国電力管理の発電用「新成羽川ダム」(高梁市)。倉敷市真備町地区を流れる高橋川上流に位置しており、県管理の「河本ダム」(高梁市)などと同じタイミングで緊急放流。下流の水害被害の原因になったのではないかと疑われている
この地区の住民に配布されたハザードマップには、この一帯が5mを超える浸水の恐れがあることが記載されていた。住民の生命財産を守る最終防衛ラインである堤防が決壊すれば、大きな被害が出ることは分かっていたのだ。「最も防がないといけない堤防決壊対策、堤防補強が不十分だったのではないでしょうか」と嘉田氏は指摘する。
「滋賀県知事になる頃から『鋼鉄製の矢板やコンクリートで周りを囲む、アーマーレビー工法で鎧型堤防にして補強すべき』と国に提案してきたのですが、歴代の自民党政権は『鎧型堤防は当てにならない。堤防補強よりもダム建設だ』と言ってきたのです。この優先順位による河川政策が、今回の豪雨災害でも大きな被害をもたらしました」(嘉田氏)。
「自宅が全壊状態となった」という住民の竹内昇氏は、こう話す。
「ハザードマップが配られたことは知っていたが、水没危険区域だとは気がつかなかった。豪雨災害後に見て、初めて知った」
国交省も岡山県も倉敷市も、水没の恐れがあることを知りながらハザードマップの配布で事足りて、水没リスクを周知徹底することをしなかった。さらに、住民の生命・財産を守る最終防衛ラインである、堤防の強化も怠っていたのだ。