都心の満員電車対策の新路線は無用の長物に!? 都市部の新路線建設は鉄道の格差を生む

都市と地方の「鉄道格差」が生まれる

 ただ、小池知事が都知事選立候補時に公約のひとつとして掲げた「満員電車ゼロ」も達成の見通しは立っていなものの、実現すれば東京近郊の働く人には嬉しいことは間違いない。新路線建設が混雑緩和につながれば……という期待もあるだろう。  なにしろ、いくら人口減少時代に突入するとは言え、東京は他の地方都市と比べてまだまだ人が集中している。公共交通機関の利便性を高める必要はあるのではないだろうか? この疑問に対し、境氏は「いや、むしろその逆だと思います」と話す。 「大都市には新たな路線が生まれてもっと便利になり、地方は鉄道が廃止されてゆく。それではますます地方と都市の格差を広げるだけで、大都市一極集中という問題はまったく改善されません。それよりは、地方の鉄道や道路などの災害対策にコストを投入したほうがよほどマシ。毎年のようにローカル線が廃止になるなかで東京ばかりに新路線、ではバランスが悪くなる一方です」

ガラガラの通勤電車が生まれる日

 また、満員電車問題も「時間が解決する」という。 「そもそも、首都圏の鉄道の平均混雑率は1975年の221%をピークに年々緩和されてきました。ここ10年ほどは165%前後で推移しています。これはひとえに、鉄道会社が複々線化や運転本数の増加など輸送量の改善に取り組んできた結果です。もちろん現状でも社会問題化していることから分かる通り、満員電車は解消されたとは言えません。ですが、今後は人口減少に先立って高齢者の比率がさらに増えて労働人口が減る。そうなれば、朝の通勤時間帯の利用者も減少するはず。また、働き方も多様になって今のように通勤時間帯に利用者が殺到するようなことも少なくなるかもしれません」  安倍政権による働き方改革の是非はともかく、テレワークの拡充などソフト面での改善が進み、そこに労働減少の人口が加われば満員電車問題は自然と解消に向かうということか。 「事実、すでに鉄道事業者では有料着席保証列車を運行させるなど、“輸送力増強”から“快適性を優先したサービス充実”に舵を切りつつあります。満員電車が解消されない現段階では賛否両論がありますが、人口減少時代に『この沿線に住みたい』と思ってもらえる路線であるようにサービスを充実させようとしているのは事実でしょう。今莫大な投資をして満員電車解消に取り組んだところで、ときがたてばそれは自然と解消される。そうなると次に起こるのは会社の生き残りをかけた“旅客争奪戦”。その前哨戦がすでに始まっているんです」  もちろん、羽田空港アクセス線のように羽田空港の利便性を高めることで国際競争力の強化にもつながるなど、人口減少時代だからこそ必要な路線もあるのは事実。ただ、無闇矢鱈に莫大な公共投資によって新路線を建設すれば、それは将来に負債を残すだけ。今は満員電車問題で喧しい世間だが、50年後には「大都市を走るガラガラの通勤電車」が深刻な課題になっているかもしれない。 <取材・文/HBO編集部 photo by Ari Helminen via flickr (CC BY 2.0))>
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