二つに、相手の自尊心を認めることが出来れば自分の心は痛まない、というものです。
何らかの精神疾患がない限り私たちははみな自分が可愛いものです。程度の差はあれ、自分を大切にし、自分を稀有な存在だと考えています。
したがって、他人と意見が合わないとき自分の意見の方が優れていると考えたとしても普通です。それが客観的にみれば全くの稚拙な意見であったとしてもそれでよいのです。そうやって自尊感情を維持し、私たちは日々を楽しく生きていけるのです。
ところで、皆さんは運転免許を持っていますか? 皆さんの運転技術は平均と比べて、どう思われますか? おそらく「高い」と答える方が大半だと思います。
この回答は平均の概念が崩壊していますが、それでよいのです。自尊感情なくして心健やかに生きていくことは難しいのです。
さて、ネガティブな微表情を見ても心を痛めない・痛まない2つの視点を紹介しました。
これらの2つは、自制心や相手への認識変化といった微表情を読みとる側の心の変革を求めるものです。言い方を変えれば、微表情の解釈や捉え方に自分が責任を負うものです。もしこの2つの視点を持つことが難しいと思われるならば、次の視点はいかがでしょうか。
ネガティブな感情の根底にある偏見を見抜く
相手のネガティブな微表情は単なる偏見かも知れない、というものです。例えば、妬み・憐れみ・軽蔑・誇りという各感情は次のカテゴリーのどの集団に向けられるでしょうか?
カテゴリー【高齢者、主婦、富裕層、キャリアウーマン、生活保護受給者、薬物依存者、自分の属している集団】
Fiskeら(2002)の調査によると次のような結果となりました。
妬み:富裕層、キャリアウーマン
憐れみ:高齢者、主婦
軽蔑:生活保護受給者、薬物依存者
誇り:自分の属している集団
Fiskeらは、私たちは集団に対する「心の温かさの高低」と「有能さの高低」の組み合わせによって偏見を構成する感情を生み出していると言います。Fiskeらの調査に参加した実験参加者は各集団を次のように評価しました。
妬み:富裕層、キャリアウーマン
⇒心が冷たく有能
憐れみ:高齢者、主婦
⇒心が温かく無能
軽蔑:生活保護受給者、薬物依存者
⇒心が冷たく無能
誇り:自分の属している集団
⇒心が温かく有能
例えば、もし皆さんが他人から妬みを抱かれたとしても、それはその人から有能だと認められている証拠なのです(ちなみに妬みは、悲しみと怒りの混合感情です)。
本当に心が冷たいか否かは自分の心に手をあてて考えて下さい。憐れみを抱かれたら心が温かいと認められている証拠です。本当に無能かどうかは自問して下さい。
有能か無能か、心が温かいか冷たいか、真実のところはわかりません。私たちは程度の差はあれ各々の色眼鏡を通して自分も他人もみています。
他人の評価は真実とは限らず、単なる偏見にすぎないのかも知れないのです。その評価が自分のことをよく知らない人からされるほど、それは偏見に満ちている可能性が高いでしょう。
以上、三つの視点があれば、他人の表情からネガティブな微表情を読みとっても、ネガティブな反応を受けても、自分の心を守ったり、受け流したり、気にしなくて済むのです。
それにしても、微表情の読みとりスキルを得る=辛くなる、という前提での質問が多くされることを考えると、皆さんそんなにホンネを抑制して生活されているのでしょうか? もっと感情を素直に表明しても生きやすい世の中にしていきたいものです。
参考文献
Fiske, S. T., Cuddy, A. J. C., Glick, P., & Xu, J. (2002). A model of (often mixed) stereotype content: Competence and warmth respectively follow from perceived status and competition. Journal of Personality and Social Psychology, 82, p.878-902.
【清水建二】
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。