「安倍三選に大義名分はない」自民党の重鎮、村上誠一郎議員が斬る

政治家は志、信念、矜持を持て

──なぜこのような状況になっているのですか。 村上:小選挙区制の導入によって、公認・比例の順位も、政治資金も執行部に握られてしまったからです。また、小泉政権時代の郵政選挙の際、郵政民営化に反対する議員は公認を得られず、しかも刺客候補を立てられました。それ以来、選挙に弱い議員たちは、執行部に逆らえば当選できないというトラウマを抱えることになったのです。 また、見識のない自民党議員が増えている原因の一つは、候補者選定システムにあります。書類選考によってキャリアやルックスを見るだけで、人物の見識を見ていないのです。だから、杉村太蔵氏、宮崎謙介氏、中川俊直氏、杉田水脈氏といった人物が議員になってしまうのです。欧米では、議員候補者をまず党の職員として雇い、政策立案や選挙区での仕事をさせて、議員としての資質を見極めています。 いまや、国会議員たちは党幹部に媚を売り、それによって当選し、ポストを得ることが政治だと思い始めているのです。政治家は選挙とポストのために、勇気と正義と倫理観を失ってはいけない。政治家たるもの、志、信念、矜持を持つべきです。官僚たちは、公務員法改正による内閣人事局によって人事権を官邸に握られた結果、官邸にものが言えなくなってしまいました。 しかし、堕落したのは政治家や役人だけではありません。国民全体が道義を失った背景には、戦後教育の失敗だと思います。「公の精神」を取り戻すために、教育を再建する必要もあると思います。 ──マスコミも権力に対するチェック機能を果たしていません。 村上:マスコミは、日馬富士や和歌山のドンファン等、さほど重要でないことを繰り返し報道して、重要なことを伝えていません。マスコミが萎縮したのは、安倍政権による焚書坑儒の結果です。かつて、自民党政権はマスコミに批判されても、マスコミを力で押さえつけるようなことはしませんでした。ところが、安倍さんは特定秘密保護法成立を強行し、高市早苗総務相は、政治的公平性を欠く放送を繰り返した場合、電波停止を命じる可能性について言及しました。 何より、新聞社トップの働きかけによって、軽減税率の中に、食品とともに新聞を盛り込んだことは、社会の木鐸の放棄につながったのではないでしょうか。44年間も続いてきた政治番組『時事放談』も9月末で終了してしまいます。権力を批判できる番組がなくなりつつあるのです。 私は、世論調査にも疑問を抱かざるを得ません。一般の世論調査と大手メディアの世論調査には、あまりにも大きな乖離があります。一般の国民の中では安倍三選を支持する人はあまり多くありませんが、大手メディアの世論調査では多数が安倍三選を支持しているように報道しています。 ──安倍独裁が進みつつあるのでしょうか。 村上:民主主義が疲弊すれば、必ずファシズムが台頭してきます。かつて1930年代に、ドイツでは全権委任法が成立して、民主的なワイマール憲法が葬り去られました。 安倍政権によって強行された特定秘密保護法成立、国家公務員法改正、集団的自衛権の解釈改憲、共謀罪法成立などを一つのパッケージとして見れば、すでに、実質的に全権委任法は形成されているように感じます。 戦前の大政翼賛会の時代ですら、東條内閣に反対する議員はかなりいました。ところが、安倍さんに反対する与党議員は数えるほどしかいません。平成の時代にこのような事態になるとは夢にも思いませんでした。 いまこそ、自民党議員もマスメディアも、それぞれの矜持を取り戻して「安倍三選に大義名分はない」と主張すべきです。 『月刊日本9月号』では、他にも「安倍3選」を阻止すべく総裁選出馬を決めた石破茂議員や、亀井静香氏や村上正邦氏、山崎拓氏といった自民党の重鎮OBらが自民党の現状に怒りの声を挙げている。 <文/月刊日本編集部> げっかんにっぽん●「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2018年9月号

特集1 ヘイトスピーチについて
特集2 自民党よ、このままでいいのか
特集3 五輪開催を返上すべきだ