陽気で楽しそうだろうが、外国人であろうがなかろうが、公共の交通機関の中で大音量で踊るのは迷惑行為であることに変わりはない。
もちろん、文化の違いとして大目に見てやろうという意見もあっていいだろう。
「迷惑といっても人を傷つけるなどしているわけではないのだから、ネットで晒すほどではないのではない」という類の批判であれば、まだわからないでもない。
しかし、具体的にどのような問題だったのかを示す動画の投稿が削除されてしまうようでは、議論どころではない。
Sさんの行為に対して「隠し撮り」との批判もある。しかし、公共の場で迷惑行為をはたらく集団に「あなた達の迷惑行為の証拠を確保するために撮影させていただいていよろしいですか」と許可を求めろというのだろうか。大音量で乗客に迷惑をかける外国人の行為を不問にするなら、違法でも何でもない隠し撮りを非難する理由もないだろう。
また、Sさんの投稿は、撮影された対象が外国人だからと言って差別的な言葉を浴びせたヘイトスピーチですらない。
Twitterに動画を投稿したことについても、何の落ち度もない一般の通行人を撮影して面白半分に晒すのとはわけが違う。
公共の場で公然と迷惑行為を行う集団についての問題提起という公益目的でなされたものだ。動画が出回っていることを知った当人たちが反省するかもしれない。あるいは、こうした問題全般に対する問題意識を社会が共有できるようになるかもしれない。動画を見たJRが何か、類似の問題を防止するために何か対応するかもしれない。
しかしTwitterではそれが許されないようだ。動画の投稿自体が違法なわけでも問題があるわけでもないのに、問題提起した側が非難され、アカウントがロックされる。異議申し立てをする術すら、実質的にない。しかも、平然と外国人(主にアジアの人々)を差別するあからさまなヘイトスピーチは放置されていることが多いにもかかわらず、だ。
Sさんに対して「(その場で外国人たちに)自分で直接注意しろ」といった類の批判もある。しかし明らかに良識を欠いた酔っぱらいの集団に1人で挑めば、さらなるトラブルの原因になりかねない。Sさん自身が危険な目に遭う可能性もあれば、騒ぎになってほかの乗客にさらなる迷惑がかかる可能性もある。JR東日本の広報担当者は、取材に対してこう語る。
「そのような場合は、列車が駅に停止した際に駅員に相談して下さい。また、そういう集団が刃物を持っているなど、人に危害が及ぶ危険がある緊急の場合であれば、車両内のSOSスイッチを押して下さい。スイッチが押されると、列車を止めて乗務員が安全を確認することになってきます」
今回のケースでは、SOSスイッチを押すほどの緊急性はなかっただろう。証拠を動画で保全して、駅についたら駅員に伝えようと考えたSさんの判断は、「正解」だったと言える。
いや、この点についてすら、違う意見を持つ者がSさんを批判することは自由だ。自由に意見を戦わせればいい。
「外国人がゴキゲンな音楽を流して踊る姿は、日本人が同じことをするよりサマになって好感が持てるかもしれません。しかし同じ車両に乗っている乗客としては、迷惑でした。個人的な感情と社会的常識から見た良し悪しは、切り離して考えるべきではないでしょうか。社会的な視点での議論を期待したのですが、外国人擁護の姿勢で批判してくる人たちは、あまり聞く耳を持ってくれなくて……」(Sさん)
しかも議論の大前提となる動画が一方的に削除されてしまえば、議論以前に問題提起ができない。意見の正否と関係なく「通報したもの勝ち」なTwitterの暗部が、改めて示された形だ。
市民の自由で合法的な問題提起を潰すTwitterは、表現の自由と民主主義の敵とすら言えるのではないだろうか。
<文/藤倉善郎(
やや日刊カルト新聞総裁)・Twitter ID:
@daily_cult>
ふじくらよしろう●1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『
「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
ふじくらよしろう●
やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:
@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『
「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)