第2の教訓…中身より、トランプ受けする「刷り込み効果」
今回の米欧首脳会談の共同声明を見ても、米国がどうしてこれで一時休戦したのは理解できないところがある。大豆と液化天然ガス(LNG)についても輸入拡大を約束したかのように報道されているが、共同声明をよくよく読めば必ずしもEUが約束したわけでもない。トランプ大統領が選挙民に向けて「約束させた」と成果を誇示しているだけだ。むしろ農務長官ら閣僚はEUの約束が不十分であると発言している。
実はここがユンケル委員長の上手いところだ。ドイツのメルケル首相とは対照的だ。メルケル首相は毎回、トランプ大統領に正面から正論を説き続けている。6月のG7サミットでの象徴的な写真の一コマがそれを物語っている。それはそれで立派なことではあるが、トランプ大統領を翻意させられなければ意味がない。トランプ大統領は苛立つだけで、むしろソリの悪さだけが残っている。
ユンケル委員長は違った。大豆とLNGについても一見耳触りのいい言葉をトランプ大統領に刷り込んだようだ。さらに一歩詰めれば、中身は多少怪しくてもかまわない。
これは北朝鮮の金正恩主席との米朝首脳会談でも見られた。
合意された米朝共同声明を読めば、突っつきどころ満載の内容だ。「完全な非核化」の具体策や期限も明示されず、北朝鮮の思惑通りになったとの批判も多かった。これほどの詰め甘にもかかわらず、トランプ大統領は会談の成功を誇示する。いくらそれまでポンペイオ国務長官が北朝鮮のカウンターパートと詰めた交渉をやっていても、首脳会談になると一挙に吹き飛んでしまいかねない。そうした危うさを常に有しているのがトランプ政権なのだ。
そうしたトランプ大統領に安倍首相が信頼を得ているのは貴重な財産だ。日米首脳会談のたびにトランプ大統領には何回ともなく同じ言葉を繰り返し言い続けている。「刷り込み」の大事さを一番痛感しているのは安倍総理だ。
例えば、自動車問題についても、どこから聞いたのか、日本市場が閉鎖的だと刷り込まれているようだ。安倍総理に会うたびに、「日本は上から100キロの鉄の玉を落として、輸入車の安全性を検査しているひどい国だ」と発言する。そのたびに根気よく誤解を解いているのだ。
間違った「刷り込み」を上書きして「逆刷り込み」をする忍耐力が必要だ。それを説教調でなく、耳障りよく入ってくる言葉で語れるかがポイントになる。
これからのFFR交渉も9月下旬の国連総会時に行われる予定の日米首脳会談がそれを発揮する勝負時だろう。
【細川昌彦】
中部大学特任教授。元・経済産業省。米州課長、中部経済産業局長などを歴任し、自動車輸出など対米通商交渉の最前線に立った。著書に『
メガ・リージョンの攻防』(東洋経済新報社)
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