タイでは、古いものはどんどん破壊されていくことが少なくない。1800年代から続くバンコクの中華街には100年以上続く飲食店が多数あるが、創業年数を売りにしない。まったく興味がないからだ。日本なら看板にも書きそうなものだが、タイ人は過去は気にしないようである。
そんな気質もあって、せっかく儲かっているソイ・カウボーイがいよいよパッポンと同じ道を歩もうと動き出した感すらある。すべての店がそうではないが、一部がボッタクリを堂々とすることで全体の客離れが始まっていくのだ。実際に先のボッタクリのグループ店は客足が遠のいていると感じる。
ボッタクリを警戒する日本人の場合、日本人向けの「カラオケ」に行く人も少なくない。「カラオケ」とはいうものの、実際は日本のキャバクラのような店で、ゴーゴーと同様、女性を連れ出してホテルに行くことを暗黙のビジネスとして行っている(一部行けない店もある)。日本人経営店もあるし、タイ人経営者でもほとんどは日本人の性格を知っているため、下手なことはしないという安心感がある。
ここ1年くらいで明朗会計で連れ出しもできないスナック形式の店も増えているが……
ところが、こういった日本人向けでもボッタクリが起こる。日本人向けカラオケは比較的融通の利く店が多く、個室を無料にしてほしい、少し安くしてほしいといった要望にある程度応えてくれる。しかし、そんな入店前の交渉がすべて反故にされて正規料金がついていることはよくある。ただ、これはボッタクリというか間違いとも言えるので、その時点でクレームをいれると修正されることが多い。
筆者が先日体験したボッタクリは、タニヤと呼ばれる日本人向けカラオケ店が密集したエリアの店でのことだ。「S.A.」という店で、以前は小さかったが最近急に人気が出てきて、店の規模が大きくなった。急激な変化で経営者の目が届いていないのか、伝票に注文していないドリンクが数杯ついていた。筆者がすぐにクレームをすると、戻ってきた伝票は1杯だけ減らされていただけだった。もちろん再度修正させたが、またマイナス1杯された伝票が戻ってきた。ここまで来るととんちの世界である。
知人も同じ店でボッタクリに遭っていた。1時間程度飲んだが、その前に会食で飲んでいたため、かなり酔っ払ってしまった。感覚的にはこれまではかかっても2000バーツくらいだった。しかし、請求は5000バーツ近く。酔っ払っていて細かいところまでクレームできず、結局3000バーツは払わされた。
「S.A」はタイ人経営店の話だったが、ある人からは日本人マネージャーがいる店でもボッタクリがあったと聞いた。
その店は日本人が常駐するにも関わらずあまり評判がよくないようで、在住者の間でもあまり話題にもならないような店だ。
被害者はタイ在住で、その店の前を通ったときに顔見知りのママさんに入っていくように頼まれたという。そのとき持ち合わせが3000バーツ(約1万円)しかなかった。その範囲内で飲ませてくれるならと言うと、ママさんはOKした。とはいっても、ひとりで3000バーツならタニヤではそこそこに飲める金額である。しかし、請求は2万バーツ(約6.6万円)だった。かなり酔っていたそうで、飲んだものの内訳がわからず、結局クレジットカードで払ったという。
タイ人経営の店と日本人が関わる店でのやり口の違いはクレジットカードにある。タイ人経営の店では、手持ちのカネを取られるだけだが、日本人経営の店ではカードを使わせてまでもカネを取ろうとするのだ。
この違いは、次のようなことが背景にあると思われる。つまり、日本と比べて、タイではクレジットカードの普及率はそんなに高くないため、タイ人経営店はクレジットカードで払わせようということに頭が回っていない可能性があるのだ。
飲んだ内訳まで判明していないため、ぼったくられたのかどうかがわからないが、いずれにしても最初の約束は完全に無視されている。