タイが最も暑い季節には旧正月がある。かつてタイの新年は今の4月13日で、15日までは「ソンクラーン」と呼ばれるタイ人にとって最も大切な祝日になる。このソンクラーンは別名「水かけ祭り」と呼ばれ、全土的に無礼講の水かけ遊びが行われる。元々は厳かな儀式だったが、水かけだけがクローズアップされ、世界的に有名なイベントになった。
タイ旧正月の「水かけ祭り」は水鉄砲で水を掛け合う
この水かけ祭りは現在もエアコンが完全普及していない中では最良の暑さ対策とも言える。特に地方出身者はソンクラーン時期に限らず、水浴びを好む。1日に数回ほど浴びるのが一般的で、国鉄駅などはシャワー室が併設されるほどだ。バンコクこそシャワーで浴びるが、水道がない田舎では雨水を甕に溜めて、それを浴びて暑さを凌ぐ。
タイは商業施設の屋上のプールでさえこの規模なので、涼めるポイントは多い
コンドミニアム(日本の分譲マンションなど)暮らしをする世帯だとプールの利用もある。タイでは中級コンドミニアムからプールが共有スペースにあることが普通で、水浴びの代わりにプールで泳ぐこともある。ただ、陽射しを嫌う気持ちの方が強いからか、プールでも海でも泳ぐときはだいたい夕方からになる。一応これも合理的で、常夏のタイは夜間も気温が下がりにくいため、寝る前に身体を冷やして快適な睡眠を得るという目的もある。
田舎の家屋にある雨水を溜めた甕。あまり水浴びをしたくない色合いをしているが
すでに紹介したタイ人の熱対策をまとめると「暑いときは出歩かず」、「夕方に水浴びをして身体を冷ます」ということになる。日本の昔の夏のしのぎ方もこんな感じだったのかもしれない。
そのため、経済発展が著しいバンコクにおいては、日本同様にそんな方法で暑さを避けることは不可能になってきた。できるだけ外に出ないような努力はしつつも、今どきの会社員はいくらタイ人であっても適当に働くわけにはいかない。タイも様変わりしつつあり、新たな暑さへの知恵が必要となる。
タイはフルーツジュースが安く、水分補給がしやすい
バンコクは先進国並みにビジネスがスピード感を持って邁進している。これまでのタイ人のようにマイペースでのんびりと過ごすということは時代遅れどころか食いっぱぐれを起こしてしまうために、みんな必死に働かざるを得ない。仕事に精一杯で、様相が変わった生活スタイルに合った暑さ対策の最後の砦はエアコンしかない状態になっている。
自宅、オフィス、飲食店、タクシー、バス、電車、商業施設。あらゆる場所でエアコンがあるポイントを選んでいくことが、バンコクという都会で暑さを乗り越える方法になる。ヒートアイランド現象だとか節電などといった考え方はタイにはないので、エアコンはできる限り使い、温度も下げていく。商業施設は寒いことがサービスの一環かのように温度が低く、オフィスで女性たちは厚手の長袖を着て働くほどである。
寒暖差が激しくなるので体調を崩すこともあり、特に元から生まれ育ったところに帰りたいという願望が強い地方出身タイ人の「バンコクは暮らしにくい」といった不満が強くなる。暑さがタイ人に与える悪影響のひとつだ。
タイ東北地方の高床式家屋は日中は床下で過ごし、夜寝るときだけ上に上がる
日本ではタイ人のようにできるだけ出歩かないだとか、頻繁に水浴びをするということは困難だろう。その中ではタイ料理を食べることをぜひおすすめしたい。タイ料理も暑気払い対策に合っているからだ。タイ人が暑さに強いのはタイ料理も要因のひとつなのではないか。