もっとも、日本に技術がないというわけではない。すでに宇宙船を打ち上げられるほどの大きなロケットはあり、国際宇宙ステーションに物資を補給する無人補給機「こうのとり」の技術は、宇宙船の開発に役立つ。米ロの宇宙船で宇宙に飛び立った、日本人宇宙飛行士の知見の蓄積もある。
また、実際に宇宙船を造るという具体的な計画こそないものの、さまざまな検討や研究は行われている。
しかし、実際に日本が宇宙船を開発し、独自の有人宇宙計画を進めるには、多くの課題や問題がある。
たとえば、有人宇宙船の開発には1兆円ともいわれるほど多額の資金が必要だといわれる。日本の宇宙予算は決して潤沢ではなく、予算全体が大きく増えることがなければ、他の分野が割りを食うだけとなろう。また、打ち上げや試験で失敗し、人命が失われた場合、それを受け止め、適切に対処できることができるかという問題もある。
この2点は、これまで日本が独自の有人宇宙開発を行うことを決断できなかった理由でもあるとされる。
なにより、日本が独自に有人宇宙開発をやるのなら、確固とした理由と戦略が必要である。
中国をはじめ、インドなど、他国がこぞって有人宇宙飛行に挑む中、日本はどうすべきかを考えることは重要だが、しかしだからといって、安易に「他国もやっているからやる」、「中国、さらにインドもやっているのだからやるべき」という考え方は危険である。
日本が宇宙開発の分野で、世界にどのような存在感を発揮するべきかという問いから始まり、それを実現する手段として「有人が必要」、あるいは「有人以外に特化することでも叶うのではないか」、という議論になることが理想であろう。
日本の宇宙ステーション補給機「こうのとり」の技術は、有人宇宙船にも役立つ (C) NASA
また、世界の趨勢としては、国が有人宇宙開発をやる時代は終わりを迎えつつある。
たしかに中国やインド、ロシアなどはまだ国が主となっているが、米国ではスペースXやボーイングなど、民間企業が宇宙船の開発を行っており、国側もそうした民間による動きを支援している。
これから日本が国としての有人宇宙飛行計画を立ち上げたとしても、実現までにはインドと同じくらい、すなわち10年以上の歳月が必要だろう。そのころには、スペースXなどの宇宙船がすでに何度も宇宙を飛ぶなどし、民間による宇宙飛行はさらなる広がりを見せ、主流になっているばかりか、宇宙輸送や旅行がビジネス化している可能性もある。
日本も有人を行うべきだという結論になったとしても、将来的に民間に運用を移管、ビジネス化することを念頭に置き、開発段階から民間が積極的にかかわることが望ましいだろう。さもなくば、ロケットのように、宇宙船の価格競争でも米国に引けを取ることになってしまうかもしれない。
今後は有人宇宙開発も、国の威信やプレゼンスの確保といった観点だけでなく、ビジネスという観点から考えることも重要になろう。
米国では有人宇宙船も民間企業が開発、運用する時代になっている。画像はスペースXが開発中の「クルー・ドラゴン」の想像図 (C) SpaceX
<文/鳥嶋真也>
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
Webサイト:
http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(
https://twitter.com/Kosmograd_Info)
【参考】
・SUCCESSFUL FLIGHT TESTING OF CREW ESCAPE SYSTEM – TECHNOLOGY DEMONSTRATOR – ISRO(
https://www.isro.gov.in/update/05-jul-2018/successful-flight-testing-of-crew-escape-system-technology-demonstrator)
・Flight test of crew escape system – Technology Demonstrator Lift of video – ISRO(
https://www.isro.gov.in/flight-test-of-crew-escape-system-technology-demonstrator-lift-of-video)
・Human Spaceflight Program (Overview) – Indian Space Projects(
https://sites.google.com/site/indianspaceprojects/human-spaceflight-programme-hsp/Human-Spaceflight-Program)
・今後の宇宙開発利用に関する取組みの基本について 総合科学技術会議(2002年6月19日)(
http://www8.cao.go.jp/cstp/output/iken020619_5.pdf)
・HTV-R 回収機(
http://fanfun.jaxa.jp/c/media/file/jaxas047htv-r.pdf)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
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КОСМОГРАД
Twitter:
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