18きっぷ(だけではなくて、その他のフリーきっぷも同じだが)の最大の利点は、“進むも戻るも、乗るも降りるも自由”というところ。例えば、東京から熱海の温泉に向かうとき。熱海までの道すがらいくらでも途中下車をして寄り道ができるし、熱海の温泉旅館に荷持を置いてから少し戻って小田原散策をすることもできる。日付をまたがなければ、もちろん18きっぷ1日分(2370円)。一直線に向かえば、東京~熱海間は1944円(ICカード利用)だから18きっぷだと損なのだが、途中下車や行ったり来たりすればあっという間に元は取れる。
このような首都圏から数時間程度の場所ならば、複数人で日帰り旅行を楽しむのも18きっぷの賢い使い方だ。新宿を出発して宇都宮に餃子を食べに行くならば、普通なら片道1944円、往復3888円だ。18きっぷを使えば、約1500円オトク、ということになる。
さらに途中下車をしたり、小山で両毛線に乗り換えてあしかがフラワーパークに立ち寄ったり、旅行の可能性は無限に広がるのである。1人でもいいが、1枚の18きっぷで5人まで同時に使えるので、グループでの日帰り旅行にもぴったりだ。
18きっぷを愛用しているという40代の男性は言う。
「普通に目的地を決めて旅行すると、きっぷを買ってピンポイントでそこに行くことになるでしょう。でも、それだと決められた行程をなぞるだけ、みたいな感覚なんですよね。18きっぷみたいなフリーきっぷなら気分次第で行き先を変えたり寄り道したりと、なんでも自由ですから」
時刻表とにらめっこして綿密な計画を立てて、華麗な乗り継ぎを見せて長距離移動――。そんな鉄道ファンならではの18きっぷの旅もいいが、“近場の気ままな鉄道旅行”にも18きっぷはふさわしいというわけだ。
ただし、注意すべきこともある。前出の境氏は「気ままな途中下車は運転本数の多い大都市圏以外ではできるだけ避けたほうがいい」と話す。
「ローカル線には1~2時間に1本しか列車が来ないような路線も少なくありません。JR宇都宮線で宇都宮に行くならまだいいですが、東京の近くでも八高線の高麗川~高崎間や房総半島を走る久留里線などは運転本数の少ない典型的なローカル線。うかつに途中下車をすると、1時間以上、次の列車まで待たされることもあります」
さらにこうしたローカル線の駅周辺にはコンビニはおろか飲料の自動販売機もないようなことも珍しくない。酷暑の続くなかでは、それこそ命にかかわることもあるのだ。ただ、時刻表を持たずともスマホなどで次の列車までの時間をチェックし、水分などの確保さえしておけば問題なし。あくせくと乗り換えの急ぐのではなくて、あえてのんびりした時間を田舎の駅で過ごすのも悪くないかもしれない。
「“シロウトは使うな”みたいなことを言う鉄道ファンがいるじゃないですか。それって、本末転倒ですよね。誰でも気ままな鉄道の旅をできるのが18きっぷのいいところ。気軽にどんどん使ってもらって、鉄道の旅の楽しさを知ってもらえればいいと思います」(境氏)
振りかぶって“旅行”と言うほどではないけれど、普段はめったに行くことのない“ちょっとだけ遠い街”……。そんな場所に自由に出かけるためのフリーパス。それが青春18きっぷなのだ。この夏、少し離れた知らない街へ、18きっぷで出かけてみてはどうだろう?
<取材・文/HBO編集部>