高齢になってもなお、“子育て”を強いられ死ぬまで苦しむ老人たち<競売事例から見える世界9>

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一つでも歯車が狂うと「平穏な老後」は霧散する。なまじ元気なのも悪く働き……

「高齢者による自動車暴走事故が多発」「多重課題を抱える介護の現場」「歯止めのかからない高齢者医療費負担」  ニュースの小見出しをチラチラ眺めてみると、どうも心身が弱っていたり、身体の自由が衰えてしまった高齢者のみを「高齢者」と扱い報じるものが目立つ。  もちろんそのような側面も実際に大きいのだろうし、それ自体を否定するつもりは毛頭ない。  ただ、この不動産執行の現場に携わっていると、高齢者に抱くイメージは多少異なる。  誰かの助けを必要としている高齢者、誰かの負担となっている高齢者ではなく、今なお一家の大黒柱として現役生活を続ける、あるいは強いられている元気な高齢者たちの姿を多々目にするためだ。  では何故、そんな元気な高齢者たちが不動産の差し押さえという状況に追い込まれて行くのかという点に触れてみたい。  この日の不動産執行当該物件はターミナル駅にもほど近い沿線の駅より徒歩5分という好立地。敷地面積も広いのだが、土地は定期借地権。  そして定期借地権の物件にありがちな、敷地内の未登記建物や未登記増築が多々あり間取りの確認作業に難航した。  ちなみに定期借地権の上モノに未登記増築などが多発するのは、貸主に許可取りをするのが手間だからだ。  債務者は後期高齢者。わずか数年前までは年齢別の全国スポーツ大会で夫婦揃ったペア優勝を収めるほどの健康体でバリバリ働いていたのだが、突然この家庭を不運が立て続けに襲うことに。  発端は奥さんの突然死。一緒に暮らしていた二人の息子のうち、次男が母の死と会社でのストレスがタイミング悪く重なり自室から動けない状況に。続いて長男も酷い鬱を発症し介護が必要な状況となってしまった。  債務者によると二人分の医療費やヘルパー派遣会社に支払う金額だけで月に40万円が消えていったという。  この状況でも債務者は働き詰めで家計をやりくりしていたのだが、自転車当て逃げ事故に遭い膝と腰を痛めてしまった。
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中年の息子、娘の世話をして共倒れ
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