そして、もう一本話題になっているのが、スカーレット・ヨハンソンがトランスジェンダーの男性を演じる予定だった『ラブ&タグ』だ。女性として生まれながら、自身を男性として認識していた人物がテーマとなっているのだが、このトランスジェンダー(以下、トランス)の役をシスジェンダー(身体的性別と性同一性が一致している人)が演じることに、批判が殺到したのだ。
トランスでない役者は、トランスを演じるべきではない……。『
NME』を筆頭に、多くのメディアがこの議論を取り上げているが、ヨハンソンが次の声明を出したことで、批判のボルテージはさらにわき上がった。
「ジェフリー・タンバー、ジャレッド・レト、フェリシティ・ハフマンに意見を聞いてみればいい」
ヨハンソンが挙げた役者の名前は、いずれもセクシュアル・マイノリティを演じたシスジェンダーの役者たち。「なんで私だけ?」といったニュアンスが感じられたことで、火に油を注ぐ結果となったのだ。結局、ヨハンソンは降板。『
Out.com』で次のような声明を出すこととなった。
「トランスジェンダーの人々に対する文化的理解は進歩し続けています。キャスティングについての最初の声明を出してから、彼らのコミュニティから多くを学んで、私の発言が無神経だったと気づきました。トランスジェンダーのコミュニティには尊敬と愛を持っていますし、ハリウッドで包容性に関しての議論が続いていることを嬉しく思います」
現在、『ラグ&タグ』は大物女優のヨハンセンが降板したことで、製作そのものが危ぶまれている。
演じる役と役者の性的志向は一致させるべき……! そのとおり、トランスジェンダー女優を起用し、アカデミー賞を受賞した監督がいる。チリ人のセバスチャン・レリオだ。
しかし、『ファンタスティック・ウーマン』で外国語映画賞を獲得した彼は、シスジェンダーをトランス役でキャスティングすることについて、「芸術的にも、倫理的にも議論の余地はあるが、禁止されるべきではない」と語っている。
今回、議論を呼んだヨハンセンのキャスティングについては、トランス俳優たちからの「トランスの仕事を奪うことになる」との批判があがっていた。しかし、レリオ監督はそういった意見について、『
ハリウッド・レポーター』にこう述べている。
「私が『ファンタスティック・ウーマン』でダニエラ・ベガをマリーナ役にしようと思ったのは、芸術的な自由に基づいたことであって、ポリティカル・コレクトネスによるものではありません。私は世間にトランス役はトランスの役者が演じるべきだと言ったわけじゃない。ただ自分の映画にとってふさわしく感じたことをやっただけです」
たしかにレリオ監督はトランス役に実際トランスである役者を起用した。しかし、それは社会や倫理的に“正しい”からではなく、あくまで作品に対してベストな選択であるという判断からだったのだ。