テロ阻止に最も必要なのは、イスラム教徒同士の文化的・教義的対話を支援すること
ヴェドリーヌ氏をイメージして書かれた書とともに
――テロ行為を阻止するためには、どのような備えが必要でしょうか。
ヴェドリーヌ::課題面を言えば、世界規模での秩序的で一貫したテロ対策がなされていないことです。その最初の対策として、各国が自前の防衛策を強化することを求めたいと思います。
具体的には、警察行政を中心とした自衛力の強化であり、起こり得るリスクを予見しながら対処する態勢の整備が必要です。そのうえでテロに関する適切な情報把握を進めて、各国が警備体制の強化を図るための情報共有網を構築する必要があります。最後にようやく軍事的な準備がきます。例えば、軍基地および近隣居住区域などでの警戒行動です。
イスラム教の当事者同士が、テロ回避のために努力することも期待したい。例えば、幅広いイスラム教徒が参加して「対話を通じた紛争抑止」をめざすといった努力です。イスラム教徒自身がイスラム教のあり方について「文化的・教義的対話」を深める中で、社会との平和的共存の道を探るものです。この場合は、各国政府が前面に出る必要はありません。
実は、イスラム社会の中では知的ムスリムの自発的・平和的言論活動が活発に行われており、欧州諸国、マグレブ諸国(北西アフリカ諸国)、中近東、南米などにも広がりをみせています。イスラム教徒間の対話は、長期的にみれば勇気ある穏健派イスラム教徒の勝利となるでしょう。
したがって、過激派イスラム教徒によるテロに対抗する手段は、国内の自衛手段、軍事行動そして宗教的対話です。われわれはここに加わり、善処していかねばなりません。
日本もアメリカに対して「同盟すれども同調せず」の立場をとるべき
日本外交はアメリカから自立すべきと説くヴェドリーヌ氏
――ヴェドリーヌさんの格言に「同盟すれども同調せず」という言葉があります。この言葉で何をおっしゃりたかったのでしょうか?
ヴェドリーヌ:この言葉は、かなり前に私がフランソワ=ミッテランの外交顧問であったときに、アメリカとの関係について質問を呈されて発した言葉です。私たちは1949年以来、アメリカの同盟国です。しかし、ある時には同意しますが、また別の時には同意しない、ということも起こりえます。それはどういう主題かによります。
これを単純に理解したいジャーナリストの中には「あなたは(アメリカと)同盟しているのか、同盟していないのか?」と聞く人がいますが、私はいつも明快にこう答えます。「私たちフランスとアメリカは歴史的な友人である」と。
フランスの人民と米国の人民との間には、アメリカ独立戦争でのラファイエット将軍などに代表される、友情の歴史があります(※フランスは1778年、アメリカ独立戦争に参戦。イギリスからの独立を助けた)。
ですから私たちは同盟国です。しかしだからといって、アメリカと自動的に提携しなければならないのでしょうか? いや、そうじゃないでしょうね。ものによってはアメリカと同意できることもありますが、同意できない場合もあります。
シャルル=ドゴール大統領は、ベルリンやキューバ危機のような国際的な事件の時には、常にアメリカ支持の側にいましたが、フランスとしての「立場の独立」は確保していました。フランソワ=ミッテラン大統領も、多くのテーマでアメリカと合意しましたが、ロシアのガスパイプラインや中東問題、スターウォーズ計画のような多くの問題については、アメリカと意見は一致しませんでした。
「同盟すれども同調せず」という言葉は、このアメリカとの関係でのフランスの政治のあり方を表現するために生まれたものなのです。
アメリカではしばしば「同盟国は自動的に連携しなければならない、そうでなければ同盟国ではない」と考える国家主義的指導者が出現します。しかし、私たちフランスはこのことに対して「ノン」を言います。
私たちは忠実な同盟国ですが、特定の主題に関しては独自の別の立場というものがあります。私は、この言葉がフランスのためにとても良い立場をもたらすと信じていますし、他のすべてのヨーロッパの国々がそうでなければならないと思います。
――日本の対米外交についてはいかがでしょうか?
ヴェドリーヌ:もしあなた方がこれ(同盟すれども同調せず)をできるならば、良いにこしたことはありません。可能ならば、ぜひその立場を貫くべきでしょう。日本も、アメリカにいつまでも追従するのでなく、「同調しない」ことも必要です。
聞き手・文・撮影:及川健二(日仏共同テレビ局France10)記者
聞き手&翻訳:浜田真悟
編集協力:ダイアナ・オセイラン(NPOフランス女性起業グループLed By Her)
※月刊「公明」2018年1月号より一部引用