それ以上に、この物件で問題だったのは彼女が債務者となった理由。
我々に彼女の収入源を知る由もないが、かなり多額の資産や収入がある様子。これに付け入る不動産業者がおり、物件をいくつも購入させるという不動産業界では珍しい“常連さん”、いわゆる“太客”に仕立て上げられていたのだ。
複数の不動産を購入させる根拠に、彼女がファンである某落語家や某ミュージシャンの名が利用されていたという寸法だ。
具体的には「あの曲の、あのフレーズのシーンとドンピシャの物件です」「某落語家の実家がちょっと見えます」といった言葉があった様子。
そこに嘘はないのかもしれないが、なんだかなぁという思いは否めない。
債務者曰く、実際いくつかの物件は某落語家の関係者名義になっているというが、本当にその名義人が某落語家の関係者なのかどうかはわからない。
なお、彼女が購入した物件のほとんどが現金決済されているようだが、一部は毎回特定の貸金業者から金を借りていたようで、この業者は少額でも債務者からの支払いが滞ると、その度に嫌がらせのような強制競売を何度となくかけるということで、債務者は不動産執行の現場でも珍しい“常連さん”になっていた。
全てを裏取りしたわけでもなければ、口頭により方々から入手した情報を並べて眺めただけという状況ではあるが、債務者から資産を吸い上げるべく行動をともにしている者がいる可能性も否定できない。
今回紹介した事例は数ある中の一例にしか過ぎず、他にも自活能力は失っていない程度の軽い認知症疑いのある高齢者や軽度の知的障害者が、同様に食い物にされているというケースは多々ある。
彼ら彼女らの多くが、自分は“救いの手が差し伸べられるべき被害者である”とは認識していない。
もちろん本人が“被害”と認識していない以上、そこに法的な責任を追求されるものや、処罰の対象になるものはいないのだろう。
しかし、相対的に眺めると彼らが食い物にされているように認識できるケースは多く見受けられる。
彼らの強い思い込みを巧みに利用し、財産を吸い上げようとする者たちがいる。そのような人々に我々は何を思い、どう向き合っていくべきなのだろうか。
救いを自らの意思で求めない者に、本当に救いの手は必要ないのだろうか。
【ニポポ(from トンガリキッズ)】
ライターの傍ら、債務者の不動産を競売にかける『不動産執行』のサポートも行う。2005年トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。
Twitter:
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オフィシャルブログ:
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全国の競売情報を収集するグループ。その事例から見えてくるものをお伝えして行きます。